まず,13頁にある患者家族の手紙を読んで下さい。これは,統合失調症を病む患者や家族みんなの声でしょう。多くの精神科医がこの声に耳をふさぎ,神経伝達物質異常という仮説(これが仮説の水準にあることは八木剛平先生の著述に詳述されています)にすがりつき日々を送っています。その結果は,多剤併用・大量投薬となり,それにより引き起こされている無気力・不活発も病気本来の陰性症状に算入されてしまいます。
 そうした風潮を打破しようと,努力と工夫をかさねている精神科医も沢山います。挑戦者です。13頁の患者家族の声に応えようとする専門家たちです。
 原田誠一さんも,かつて若き挑戦者の一人でした。いまやベテラン精神科医となった原田さんは,これまでの工夫の成果をまとめて世に問うことにしました。嬉しいことです。
 自身はまだ中間報告の段階と位置づけておられ,今後も試行錯誤を続けて行かれるのですが,現段階ですら,十分に豊穣かつ有用であり,治療現場を活性化することが確かです。
 むしろ,新鮮な気づきが多すぎて,読者にめまいの感覚を引き起こす危惧すらあります。そこで,読者のための若干の導入を書き記すことで,序に代えようと思いつきました。
 薬物療法が主流となっているのは,確かに有効だからです。つまり統合失調症は,脳という臓器が傷んでいるのです。胃や腸といった臓器が傷んでいる場合と同じなのです。胃という臓器が傷んでいる場合も薬を投与します,症状や治療計画に合わせて薬の種類は色々です。だが,胃の病のとき薬を飲んでいるだけでは治療は不十分です。やたらと量を増やしても駄目です。絶食して胃を休めたり,消化の良いもの食べたり,禁酒・禁煙したり,良く噛むようにしたりして,胃の仕事の負担を軽くします。また生活全体を見直して,ストレスを減らしたり,逆に,運動や娯楽などを取り入れたりすることも胃にとって治療的な場合があります。そこには個体差がありますので,治療者と患者が話し合いながら工夫する必要があります。また胃の傷みの結果としての,痛みや食欲不振や吐き気などの症状も,それが生み出す生活のし辛さを軽くするように工夫すると,日々の生活が改善されることを介して二次的に胃の自然治癒力を助けます。さらに,胃の病が慢性になると,色々な治療的配慮を家族や職場が担うことが必要になり,勉強し理解を深めることで,より賢い援助者となれます。そうした胃に対する多面的な治療や養生は,つまるところ胃の自然治癒力を助けるという一点に集約されるのです。脳という臓器の場合も同じであり,症状が多少風変わりであるに過ぎません。
 この本に盛られている療養の知恵は多種多様ですが,胃病の場合と同じで,多面的にいろいろ試してみるのが良いのです。そうやって,自分に合う方法を探すのが正しい読み方です。中でもこの本の中心となっている,「幻聴への対処法」は,全部を一度に理解しようとするのでなく,何となく気に入った部分だけを実行してみるというやり方で,実際に試しながら,少しずつ読んでゆくことを勧めます。何しろ中身が濃いからです。
 原田誠一さんの現場での挑戦が,次々に進展・深化してゆくのが楽しみです。養生や援助の研究は,単なる台所の知恵であるに止まらず,統合失調症の本質への肉薄という側面も持っているのです。

伊敷病院  神田橋絛治