日本語版への序文

 子ども/若者は,さまざまな心理的問題を示します。認知行動療法は,比較的新しい心理療法であるのにもかかわらず,子ども/若者が示す心理的問題への効果的な介入方法として,急速にその地位を固めてきています。認知行動療法では,心理的問題は,不適切な思い込みや偏った考え方のために生じ,それによって発展・維持されているということが前提となっています。そして,思考,感情,行動の関連性に注目し,そこに関わっていきます。不適切な考え方をすることで不快な感情が引き起こされ,それが,行動に影響を与えるとされているのです。したがって,子ども/若者が自分自身の不適切で偏った考え方を見つけ出し,その考え方を変えるのを援助することが重要となります。考え方を変えることができれば,感情や行動を改善することができます。その結果として,心理的問題は改善され,子どもや若者の生活は安定したものになっていきます。
 子ども/若者によくみられる心理障害としては,抑うつ,不安,恐怖症,強迫性障害,PTSDなどがあります。認知行動療法は,このような心理障害を含めた広範囲の子ども/若者の問題への介入効果があります。このことは,数多くの実証的な研究によって確かめられています。効果的であることに加えて,現在の問題に焦点を当て,短期間で成果を得られることも,認知行動療法が特に子ども/若者の援助に適している理由となっています。認知行動療法は,問題を抱える子ども/若者と協力して不適切な考え方を見つけ出し,それを改善していくことを試みます。子ども/若者を励まし,問題に対して不適切な対応をしていることに気づき,新しい対処の仕方を試してみるように促します。その結果,子ども/若者は,介入過程に主体的に参加し,変化に向けての新たな考え方を積極的に提案し,さらにはそれを実際に試してみることをします。そのような過程を通して子ども/若者は,問題に対処するための新たな解決方法を,自ら発見していくのです。

 認知行動療法は成人用に開発され,実施されてきました。そのため,複雑で抽象的な用語を使いこなすスキルや知的な推論ができるスキルが前提となっていました。そこで,子ども(7歳以上)や若者に適用するためには,どのようにしたらよいのかということが重要なテーマとなっています。子ども/若者にとっては,非言語な交流こそが身近なものであり,魅力的な媒体となります。そこで,子ども/若者に認知行動療法を適用するためには,非言語的な関わりができるように工夫していく創造性が不可欠です。対象となる子ども/若者の発達段階に合わせて,彼らが理解でき,楽しみながら課題に取り組めるように調整することが求められます。

 私は,これまで,認知行動療法を用いて心理的な障害や問題を示す子ども/若者の心理援助に幅広く取り組んできました。本書は,私の,このような臨床経験に基づいて構成されたものです。子ども/若者に認知行動療法を適用するためには,その主要概念を単純化し,分かりやすく工夫して用いなければなりません。本書では,そのような工夫の実例を数多く紹介します。本書は,子ども/若者の認知行動療法はこうあるべきだということを示すものではありません。むしろ,子ども/若者が興味を持ち,積極的に関わることができるように認知行動療法の主要概念をわかりやすくするための工夫に焦点を当てています。それによって子ども/若者に関わるセラピストの創造性を刺激し,豊かな介入ができるようにしていくことが本書の目的となっています。

 すでに本書は,数多くの国で翻訳され,実践されています。そのような中で下山晴彦教授をはじめとする東京大学・臨床心理学コースのチームによって本書が日本語に翻訳され,出版されることは,私にとっては特別な喜びです。私と下山教授のチームは,子どもと若者のための認知行動療法を共同して発展させる企画をすでに開始しています。日本において,このような活動がますます発展していくことを心より期待しております。

2006年6月
英国バース大学児童と家庭のメンタルヘルス部門
教授・指導臨床心理士

 ポール・スタラード
Paul Stallard