監訳者あとがき

 近年,わが国においては,子どもや若者の問題行動が新しい形を取り始めている。対人的引きこもり傾向を示す半面,突発的な攻撃行動を示すという問題が頻発している。これは,自己の感情のコントロールが未熟なために対人場面や社会的関係に対処できず,ちょっとした刺激で攻撃的な行動に出てしまうことが原因と考えられる。このような問題を示す子どもや若者は,従来のカウンセリングや心理療法では対応が難しい。その理由は,彼らがカウンセリングや心理療法で前提とされる人間関係を回避する傾向が強いからである。さらに自己を見直すための自我能力や認知能力が育っていないということもある。そこで,自己の感情や行動を統制する自我能力や,自己の感情コントロールを育成するのに有効な心理教育プログラムが強く求められるようになっている。
 子どもや若者の自己の感情や行動を統制する自我能力を育成するために有効なのが,認知行動療法である。認知行動療法は,認知,感情,行動を分化してとらえた上で,感情と行動をコントロールできる認知機能を育成し,改善するのに適している。このような点を考慮して本書の翻訳を思い立った。

 本書は,認知行動療法を子どもや若者に適用するためのワークブックである。ワークブックといっても,単なるマニュアル本ではない。認知行動療法の基本的理論が非常にわかりやすく解説されている。しかも,それを子どもや若者に適用する際の工夫と,そのためのワークシートが示されている(英語版では,インターネットを活用してパソコン上で資料を入手できるといった工夫もされている)。したがって,個人面接だけでなく,教室などの集団を対象とした心理教育や予防活動に応用が可能である。このように本書は,高校生レベルまで含めてかなり幅広い児童・青少年を対象とした介入に活用できる認知行動療法のワークブックとなっている。
 これまで認知行動療法は,クライエントが自己の認知を見直し,その歪みや誤りを見出すことが前提となっていた。そのため,内省する能力が未熟な子どもには,適用が難しいと考えられていた。しかし,本書は,漫画を随所に使うなどして,子どもが自分の認知,感情,行動を意識できるように工夫されている。しかも,自分でイラストや文章を書き込むワークシートを活用しているので,楽しみながら認知行動療法を実践できるという画期的な書物となっている。さらに,対象が子どもや若者であるということで,認知行動療法について,その基本的理論から実践的技法までが丁寧に,そして具体的に解説されている。その点で認知行動療法の初心者にとっては格好の入門書ともなっている。
……(後略)……

2006年6月 下山晴彦