日本語版への序文

 一つの言語で書かれ編集された言葉の数々が別の言語によってその姿を現すことはほんとうに驚くべきことです。この特別な本の中の各章は,著者たちと私が有益なものであると理解してきたアイデアを表現しており,日本の読者の皆さんが,十分時間をかけてこれらについて検討して下さるならば,私たちにとってこれほど光栄なことはありません。
 構成主義的心理療法の基本的な考えかたは,私たち人間は,自らの行動に影響を与える一つの世界観(「ストーリー」もしくは「物語」)を積極的に造りだしているということです。つまり,どのように見るかということが何を理解するかということの決定を,さらに,何を理解したかということが何をするかということの決定を促しているということです。読者の皆さんは,以下の各章の中で,構成主義的心理療法を実際に行う際の多くの異なる方法に出会い,それらを研究する機会が得られるでしょう。そして,ご自分の洞察,臨床経験,文化的な知恵を,クライエントが望むものをさらにもたらすような形で彼らのストーリーが変化することを援助できる方法を見出すのに応用していただきたいと思います。
 本書の中には,それぞれ熟考に値するさまざまな臨床的な諸問題とセラピストのスタイルが含まれています。しかし,それらすべてに関連した何らかの特徴も見出されるのではないかと思います。それは次のようなものです。(1)言葉の使用に際しての十分かつ鋭敏な注意にもとづいて,社会的に構成された現実に対する信念をもつこと。(2)治療同盟と本当の共同性を重要視すること。(3)クライエントの能力,動機,考え,価値,目標を何よりも尊重すること。(4)現在と未来の可能性がもっている価値を十分に認識すること。これらの特徴は,実は,かつて私のHAIKUの神様がささやかれたものでもあったのです。

言葉にこころを傾けて
問題よりも解決の
そこに奇跡のしるしあり

 英語版の原著,『構成主義的心理療法ハンドブック』(1998)の編者として,すぐれたセラピストでもある書き手のグループと一緒に仕事ができたことは大変な喜びでした。そして,各章をまとめる作業を行っているうちに徐々に深く気づかされてきたのは,それぞれの執筆者が言葉についていかにそれを明瞭なものにし,大切にしようとしているかということでした。いずれもほんとうにすばらしいものになりました(言葉の使用についての専門家が自分たちの言葉をさらに見事に使いこなそうとしたのですから)。それだけに,日本語版の出版の話を耳にした時には,私は不安になってしまいました! この著者たちの注意深い言葉の選択によって表現された多様な意味が果たして翻訳可能なのか,そうした心配が始まったのです。
 しかし,ありがたいことに私の心配はまったく無用なものになりました。日本ブリーフサイコセラピー学会の主要なメンバーの一人である児島達美教授が,日本語版の出版プロジェクト全体の監修に賛意を示してくれたのです。我々にとって,これは最大の幸運とも言うべきものでした。彼自身,専門家として,メンタルヘルスに関して高い知識をもち英語にも堪能な理想的な翻訳者のグループを集めてくれました。各翻訳者は,それぞれ担当する章の理論と内容についてはすでに十分精通しており,すべての作業が児島教授との協議の上で行われました。こうして,ここに,一貫した正確さと表現力そして有益なものに富んだ成果が誕生したのです。
 私は,原著『ハンドブック』の序論の謝辞で,各章の執筆者に対する感謝の意を述べましたが,ここにあらたなリストを書き加えることができることを大変うれしく思っています。児島達美教授そしてすばらしい翻訳者のグループ,さらにとくに読者の方々に,DOMO ARIGATO !

 マイケル・F・ホイト