『はしがき』

 障害者自立支援法時代に入っているにもかかわらず,本書のタイトルにまだ「地域生活支援」という用語を使用しているのかと思われる方々がいらっしゃると思う。ましてや本書で取り上げている精神障害者地域生活支援センターは,2006年9月末をもって条文からはなくなっている(ただし,厚生労働省は2006年度限りの「経過的精神障害者地域生活支援センター事業」を創設して予算措置を行った。その後,さらに2008年度まで経過的な支援を行うとした激変緩和措置を2006年末に発表した)。「地域生活支援」ではなく「自立支援」ではないのかという読者の声が聞こえてくるかもしれない。しかし,それには二つの理由がある。
 まず,本書で用いた質的調査によるデータが,すべて障害者自立支援法施行以前のものだからである。地域生活支援とは何なのか,どのようなことをすれば地域生活支援と言えるのかを,地域生活支援センターの精神保健福祉士たちは語ってくれているので,これを自立支援に置き換えることはできない。これは研究倫理や研究方法に属する事項でもある。
 次に,障害者自立支援法でいう自立についての検討が不十分であると考えたからである。法に記された「自立」という用語に,自立することへの強制を著者がどうしても感じてしまうからに他ならない。杞憂だと言われるかもしれないが,本書で用いた質的データから生成したグラウンデッド・セオリー(分析結果)では,精神障害者が地域で生活していく際のプロセスや,それを支援していく精神保健福祉士側のプロセスをたどったこともあり,それを著者自身が未消化のまま「自立支援」という用語に置き換えて使用することに抵抗感を覚えたからである。ただし,障害者自立支援法時代に入ったことは確かであるから,今後の研究課題になるだろう。
 法律上は「自立支援」という用語が用いられるようになったからと言って,「地域生活支援」という用語がもう古いと言われることはないと考えている。それは障害者自立支援法に地域生活支援事業が含まれているからという単純なことではない。たとえ地域生活支援センターが障害者自立支援法による地域活動支援センターや相談支援事業などに再編・移行したとしても,地域生活支援センターが行ってきたこれまでの地域生活支援をきちんと振り返って整理する必要がある。同時に,障害者自立支援法時代のなかでも,地域生活支援センターが行ってきた地域生活支援を今後どのように展開していくかという課題でもある。地域生活支援センターの精神保健福祉士が行ってきた地域生活支援とは,不十分な面はあるが,明らかに地域に基盤を置いたソーシャルワークそのものであった。このソーシャルワークを展開することこそ,精神保健福祉士の課題である。このことこそ精神保健福祉士の業務だと,胸を張って言えると確信している。著者は,精神保健福祉士が地域に基盤を置いたソーシャルワークを行うことで,精神保健福祉士の未来が開けてくる可能性があると信じている。逆に言えば,地域に基盤を置いたソーシャルワークを行わない精神保健福祉士には,未来はないということである。障害者自立支援法時代に入ったからこそ,地域に基盤を置いたソーシャルワークを展開することで,精神保健福祉士の存在価値を示してもらえればと願っている。そのためには,著者自身も研究に携わる身として試みなければならない課題がみえてくる。
 時代の変化によって現状も変化するので,当然のことながらグラウンデッド・セオリーも変わっていくことになる。それは本書で採用したグラウンデッド・セオリー・アプローチの本質でもある。すなわち,「完成することのない『プロセスとしての理論』」(三毛, 2003)だからである。障害者自立支援法による再編や改革が今後も継続していくことになると推察されるが,そのようななかで展開される地域生活支援がどのように変化するか,また変化しないのはどんな側面であるか。これらを継続的に調査するという課題が著者にはある。その継続的な調査によって,さまざまな概念やカテゴリーが変化していくことは容易に理解できるが,本書においてグラウンデッド・セオリーとして提示したコア・カテゴリーがもし変わらないとすれば,地域生活支援やソーシャルワークが精神保健福祉士の中核的業務だと主張することもできる。これらをふまえることで,本書のタイトルが『精神保健福祉士のための 地域生活支援活動モデル』になった。これが実質的な最大の理由である。

 本書の構成を述べておきたい。次の3部構成となっている。
 第1部は,精神保健福祉士による地域生活支援の活動モデルの必要性を述べ,そのことに関する文献レビューや活動モデルを導くための質的調査法について言及している。
 第2部では,採用した質的調査法(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)によって生成した活動モデルを提示し,その活動モデルについて検討・考察を加えている。
 第3部では,第2部で提示した活動モデルのなかで特に取り組まねばならない課題であるケアマネジメント技術について,チーム編成や分業,対話などの観点から言及した。
 なお,この3部構成の番外編として,「資料」を第3部の後に掲載している。これは,質的インタビューによって得られたデータをテーマ別・課題別に分類し,精神保健福祉士たちが何に向き合い,何に悩んでいるかなどを抜き出したものである。

 最後に,精神保健福祉士による地域生活支援活動やソーシャルワークが地域のなかで根づいていくことに,本書が少しでも寄与できれば幸いである。