はじめに

 本書において詳細に報告されている12事例は,25年以上前に,ミシガン州アナーバーにおいてSelma Fraibergとその同僚たちによってはじめて考え出され,乳幼児とその家族のためにさまざまの状況下において実践された乳幼児精神保健活動の実際である。本書の著者たちは,トレーニングを受けた乳幼児精神保健の専門家であり,その背景は社会福祉,心理,教育,小児・家族発達,特別支援教育である。この著者らは,精神保健衛生や児童相談をはじめ,家庭訪問による家族支援プログラム,早期介入,児童福祉,早期ヘッドスタート等の仕事をしていた。乳幼児精神保健の専門家は,安全で安定した親子関係の中で乳幼児の発達と健康を促進するために,具体的な援助,情緒的サポート,発達相談,早期における関係性形成のサポート,擁護,親−子心理援助を行った。また,さらに重要なことに,乳幼児精神保健は,例えば作業療法や遊戯療法のような治療的アプローチの代わりにもなるものである。
 ミシガン州は長年にわたって,乳幼児とその家族のために働いているさまざまな専門家のためのトレーニングを提供してきている。ミシガン乳幼児精神保健協会は1977年に設立され,専門的および学際的な能力を促進するための臨床会議,年次学会,講習会を開催している。ウェイン州立大学,ミシガン州立大学,ミシガン大学の3大学は乳幼児期と乳幼児精神保健の独自のトレーニング・プログラムを開発した。このような,ミシガンにおける強力な乳幼児精神保健サービスとトレーニングの伝統は,専門家がその仕事のための準備を行い,乳幼児とその家族との仕事を考えるための事例教材を開発した。このようにミシガンにおいて長年にわたって行われてきた仕事に感謝し,効果的な乳幼児精神保健活動の実践からの学びを共有したいと願い続けてきた。
 各著者は乳幼児とその家族のために模範的な支援をしたために選ばれた人たちである。各事例は乳幼児とその家族との直接的な関わりや,専門家を支えたスーパービジョンとコンサルテーション,そしてより大きなサービス・システムと専門家との相互連携について述べている。さらに,地方のコミュニティや小さな町,大都市におけるサービスの提供方法についても述べている。本書の事例は,シェルターや福祉住宅,アパートに住んでいる人や,もっと恵まれた生活をしている人も含んでいる。個人情報保護のために,家族の名前や個人が特定されやすい事項については修正が加えられた。各事例の最後に用意されている演習問題は自己学習用に,またグループ・ディスカッション用に作られている。このような事例が,乳幼児精神保健領域への関心と乳幼児の能力への驚きをもたらすことを願っている。専門家は,強さと変容を導く関係性を築かねばならないのである。