日本語版への序

 大阪教育大学の大河内浩人助教授が機能分析心理療法(FAP)を日本語に翻訳する企画を進めたがっていると知ったとき,私たちは身震いし感動した。もちろん,私たちは彼がなぜこのような困難な課題を引き受けたのかに大変興味を持った。Kohlenbergは大河内氏と個人的に交信し会う機会を得た。Kohlenbergは彼が自分ときわめて類似した経歴を有していることを知って喜び,かつ驚いた。たとえば,大河内氏は認知行動療法家として訓練を受け,同時に徹底的行動主義の理論や実験的知見,哲学に非常に魅了されていた。同じく,彼もまた行動分析的な実験室研究を行ってきている。心理療法が,うつや不安といった特定の症状の軽減を越えて,クライエントの人生にいかに有意で顕著な変化をもたらすかについて,徹底的行動主義はより完璧な説明を提供する潜在能力があることを,私たちと同じように大河内氏は感じていた。
 クライエントとセラピスト間の治療的に親密な関係がどのように転換的な人生の変化をもたらすのかを理解し,教えるという望みからFAPは生まれた。FAPを開発したとき,私たちはセラピストが癒しと治癒力に満ちた治療関係をクライエントと形成するのを助けるために,明瞭な徹底的行動主義の概念を使用することを欲した。セラピストはみな治療関係の重要性を認めているが,FAPの前にこのトピックを徹底的に扱ってきたのは,精神分析家だけであった。FAPは精神分析概念と同じレベルのニュアンスと複雑さをカバーしているが,厳密な実験室で説明された徹底的行動主義の概念に基づいているので,何が治療関係の変化メカニズムの構成要素となっているのかについて,より包括的な理解をもたらす。徹底的行動主義には,さらに「カルチャー・フリー(文化の壁がない)」という長所がある。したがって,世界規模の適用に向いている。
 この企画が実を結ぶまでに大河内氏が大変な貢献をしていることを私たちは知っている。そして,この日本語版の翻訳者,立命館大学助教授武藤崇氏,北里大学助手松本明生氏,目白大学講師橋稔氏,神戸親和女子大学教授吉野俊彦氏,奈良教育大学助教授杉若弘子氏,駒澤大学大学院生桑原正修氏,大阪少年鑑別所技官平井真理子氏,大阪芸術大学短期大学部カウンセラー実光由里子氏,に深く感謝したい。
 私たちは互いに地球の裏側に暮らし,大変異なる歴史を有している。しかし,人間行動の複雑さを理解したい,理論的に健全な科学的原理を用いて苦しみをやわらげてあげたい,忘れがたいほどの癒しとなる深くて意味のある治療関係を築きたい,という望みによって私たちは結ばれている。FAPを生み出したとき,私たちは自分たちの本がほかの言語に翻訳されることを夢にも思わなかった。みなさんが私たちの仕事に興味を持ってくださることを大変光栄に思い,恐縮している。そして,尊敬する日本の同僚たちの前で私たちがかぶとを脱ぐ日が来ることを期待している。

2006年6月 Robert Kohlenberg & Mavis Tsai