『おわりに』

 本書は,子どもと日常的にかかわる人間が,多様な立場から子どもをみつめ,援助してきた経験を基盤にして作成されたものである。対人スキルに関する理論やアセスメントの方法に加え,それを土台として展開される具体的な援助・指導の方法まで,幅広くかつ可能な限り詳細に記述されている。
 ある子どもの課題を「何とかしたい」と感じたとき,援助する側はまず,「自分にできることは何か」と自らに問うであろう。それが援助のスタートである。だが,限られた時間の中で,子どもの生活環境全体を視野に入れ,適切なアセスメントを行い,見通しを持って援助していくことは難しい。つい,子ども本人や家庭に原因を求めてしまったり,原因をなくすことに執着してしまったりする。
しかし,「なくす」,「なおす」といった発想では,子どもは育たない。そうではなく,子どもにできることを「広げ,豊かにする」という発想が求められる。本書で紹介している実践は,「広げ,豊かにする」発想から生まれている。しかも,ある特定の子どもを対象にしたものだけでなく,個をとりまく仲間集団との相互作用をも促進できるように工夫されている。これは,仲間との良好な相互作用があってはじめて,子どもが「仲間とともに」安心して居ることができ,「仲間のために」自分の欲求を我慢したり,思いを表現したりすることができると考えるからである。1人の子どものがんばりに,環境としての仲間集団や教員が応え,子どももまた,その子なりのやりかたで自分をとりまく環境に応えていく。こうした日常的な繰り返しが,子どもたちの対人スキルの成長を確かなものにするのであろう。
 また,「自分にできることは何か」との問いに対して,われわれは日々,試行錯誤を繰り返している。そうする中で,「自分ひとりでできることは限られている」ということに気づく。本書の編者である小林先生も私も学校現場で臨床実践をしている研究者であり,大切にしているのは教員との連携である。援助の目的を共有し,互いに助け合おうとする姿勢が,援助の幅を広げ,子ども理解に深まりをもたらす。1人では越えられないハードルも,連携している仲間の存在に勇気づけられ,挑戦しうるものに変わっていく。本書の編集も,私にとってはひとつの挑戦であった。そして,本書は,執筆者である先生方との協働の産物である。
……(後略)

平成19年3月吉日  宮前義和