『序  文』

 20世紀医学の業績をリストアップするとすれば,そのリストの上位には,人間という動物のユニークさについての知識を増大させたことが掲げられるべきであろう。この知識には,まず第一に脳,つまり意識の座としてのみならず,身体の機能や変化を制御するメカニズムとしての脳の特殊な性質についての理解がある。それに加えて,脳が司る態度や気分や情動といったものの働きが,いかに健康を促進したり病気の背景要因となったりするか,ということの理解もある。
 神経系と内分泌系と免疫系の相互作用に対して「精神神経免疫学」という新しい科学用語が作られている。この用語は,一般に,ロチェスター医科大学のロバート・エイダー(Robert Ader)博士によって確立されたものとされている。しかしこの用語が発案されるずっと前に,ジェローム・フランクは,心と身体の複雑な相互作用について研究し,著述していたのである。医学研究者で,信念体系の現実性とそれが治癒システムに及ぼす影響について,フランク以上に深く探究した者はほとんどいない。1961年に出版された本書の初版は,心が身体の状態に影響を与える,その道筋と生物化学的反応を同定した後の研究者たちの主要な発見を予見したものであった。フランクの仕事は,個人と外的世界との間の相互作用を理解するのにふさわしく,哲学的ならびに社会学的な次元においてとりわけ優れている。個人が病気についての無力感や絶望感を克服するだけでは不十分である。重要なのは,個人の幸福への脅威,もっと言えば生存への脅威に立ち向かうために,周囲の人々が動員され,社会が立ち現れてきて,病気の個人がその社会という集合的な組織体と結びついていると感じることである。不健康な世界の中では誰も真に健康であることなどできない,とフランクは信じている。社会の病気や不幸を自分の力だけで克服したり消滅させたりできる人などいない。しかし,あらゆる個人は,社会全体に対して何らか重要な貢献を成すことができる。そしてその貢献が及ぼす影響には,時に,計り知れないものがある。
 したがって,本書は永遠のテーマを扱うものではあるけれども,まさに現代的な価値を帯びたものでもある。改訂され拡張されてますますそうなったと言える。本書はわれわれの時代の最大のニードを真正面から扱っている。そのニードとはつまり,身近なコミュニティやその外に広がる世界における個人的な問題や社会的な問題についての無力感を何とか払拭したいというニードである。われわれは自分たちが意識的に気づいているよりもずっと偉大な力を持っているのだと聞かされても,それだけでは不十分である。こうした力の性質と影響の範囲を知ることが重要なのである。ジェローム・フランクとジュリア・フランクは,われわれの心と体が持つ優れた力について,そしてそれらを作動させる方法について,非常に有用な理解を与えてくれた。これは彼らが21世紀に近づきつつある時代を生きる個人に与えた処方箋なのである。この時代を生きる個人にとって,自己の発見,そして自らの潜在力へと至るための道筋の発見こそ,地球上で最もわくわくする冒険なのだから。

ノーマン・カズンズ(Norman Cousins)