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はじめに

 2006年4月から精神障害者保健福祉手帳所持者が障害者雇用率の算定対象になり,同年10月からは障害者自立支援法の新サービス体系がスタートしました。医療法人の中にも就労移行支援事業に取り組むところがでてくるなど,精神医療や精神保健福祉の領域では,精神障害のある人たちの「働く」ことを支援していく機運がこれまでになく高まっています。

 筆者は,障害者職業カウンセラーとして職業リハビリテーションの領域で長年勤務してきました。その経験をもとに,日本精神障害者リハビリテーション学会の研修講座などで,精神医療保健福祉領域の支援者向けに,精神障害のある人(主に統合失調症に罹患した人たちを想定しています)に対する雇用支援の研修を行ってきました。本書は,それをまとめたもので,精神医療保健福祉領域の支援者が職業リハビリテーション機関と連携して,どのような支援を行ったらよいかというスタンスで書いています(本書では「精神医療保健福祉」という言葉がたびたびでてきます。医療と福祉の役割がまったく違うにもかかわらず,「精神医療保健福祉」と無理矢理まとめてしまい,筆者としてもかなり気になったところですが,職業リハビリテーションとの対比で,とりあえずこのような表現になっていることをご容赦下さい)。

 そうなると,求職活動の支援や職業生活継続の支援といったことは,職業リハビリテーション機関に大車輪の活用をしてもらうのが筋で,精神医療保健福祉機関が中心になって求職活動の支援をしなくてもよいのではないか,健康管理や生活支援の側面から連携をとればよいのではないか,ということになるかもしれません。筆者も,職業リハビリテーション機関はその期待に応えなければならないと考えています。
 しかし,一方で,就労移行支援や第1号職場適応援助者(ジョブコーチ支援)により,求職活動の支援や職業生活継続の支援を自ら行う社会福祉法人や医療法人も増加しています。このため,本書では,アセスメントやプランニングだけでなく,求職活動の支援や職業生活継続のための支援についても,できるかぎり具体的なノウハウを記すことにしました。

 序章では,「職業リハビリテーションとは可能性への挑戦である」という言葉の意味を読者の皆さんと共有できればと思い,重度脳性マヒのある男性の職業自立の過程から筆者が学んだことを記しました。Part1では,雇用支援の考え方について,筆者なりの見解を述べています。Part2では,精神医療保健福祉領域の人たちに知っておいてほしい,障害者雇用支援の制度や職業リハビリテーション機関について概説しています。Part3からPart5までが本書の中心となる部分で,雇用支援の実際について記しています。Part3では,アセスメントとプランニングは自己理解と自己決定の支援であるという視点から,自己理解と自己決定を支援するための具体的な取り組みについて述べています。また,初心者の方でもスムーズな相談ができるように,誰でも使える簡単なチェックリストもつけました。Part4では,職業準備性の向上と求職活動の支援について記しました。Part5では職業生活継続の支援について,ジョブコーチ的支援のポイントも含めて述べています。終章では,筆者なりの雇用支援の今後の展望を記しました。また,参考資料として,精神障害のある人の就業状況の各種調査や,筆者が関わったジョブガイダンスの具体的な進め方も入れています。

 精神障害のある人の雇用の可能性を探り,本人と一緒に可能性へ挑戦していくための工夫を書いたつもりです。それがどこまで成功しているかわかりませんが,読者の皆さんに本書から何かのヒントを見つけていただければ幸いです。
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