あとがき

 本書は,個人精神療法に関する論文や解説を22編集めたものです。3部構成になっており,第Ⅰ部と第Ⅱ部に個人精神療法についての論文が収載されています。このうち第Ⅰ部に個人精神療法に関する総論的な文章,第Ⅱ部に疾患別の各論的な文章を割り当てました。続く第Ⅲ部は疾患解説からなり,読者の皆様が心理教育などを行う際にご参考にしていただけるところがあるかもしれない,と考えて付け加えた次第です。生来わたしの頭が,高踏で難解な論述と接すると拒絶反応を起こしてエンストしてしまう粗雑な構造になっていることを反映して,本書の文章はいずれも平易で追加説明は不要と思われます。そこでここでは,書名を『精神療法の工夫と楽しみ』としました事情について,少々楽屋話をさせていただきます。

 医者になって以来,わたしは精神科臨床の実践に必要な内容を,意識的に広く浅く学んできました。精神療法も「精神科臨床の実践に必要な内容」の一領域という位置づけであり,精神療法一筋に精進してきたわけではありません。しかるに,無鉄砲で軽率な性分がうずいたのでしょう,医者になって10年を経た頃から精神療法についての文章を時折書き綴るようになりました。もちろん,医者になった時分から精神療法に漠然とした興味を抱いてはおりました。そして,研修医時代に宮内勝先生からテープ面接を材料にして毎週懇切丁寧なご指導をいただき,さらには神田橋條治先生のスーパービジョンの会に参加して蒙を開いていただくというダブルの僥倖を得ました。しかし,軽佻浮薄で何をやっても深まらない浮気性の資質が災いして,ひとつの精神療法の流派にとことん付き合って奥義を極めるところには,現在に至るまでついぞ到達していません。精神療法に関して,幸か不幸かいつまでたってもアマチュア状態が続いているわけですし,これからもそうあり続けるでしょう。わたしの立場を例えてみると,プロ野球に対する社会人野球,専門棋士に対するアマチュア段位者といったところでしょうか。

 何しろアマチュアですから,深遠・壮大・緻密で独創性のある論述を展開することなど土台無理に決まっています。また,わたしのポケットのどこを探してもご披露できる名人芸など,はなからあるわけがありません。それではアマチュアの取柄,持味は何でしょう。おそらくは,軽さ,身近なところ,気易さ,自由でのんきなところ,楽しさなどではないでしょうか。本書収載の拙文の中に,読者の皆様に実践場面で気軽に試していただけるちょっとした身近な工夫があるかもしれない,と期待しました。さらに,ささやかな工夫をひねり出して自由に書き記す作業をわたし自身が結構楽しんできたように,読者の皆様にもちょっぴりでも楽しんでいただけるといいなあ,と夢想しました。こうしたことをふまえて,書名を『精神療法の工夫と楽しみ』とした次第です。

 前著(『統合失調症の治療―理解・援助・予防の新たな視点』)に引き続いて,序文をお寄せくださった神田橋條治先生に心よりお礼申し上げます。何しろ本文が十全ではありませんので「錦上花を添う」とはいかず,「豚に真珠」といった風情になってしまい恐縮至極ですが,先生からご快諾をいただいて以来,今日まで幸せな時間を過ごしてまいりました。(……後略)

2007年12月1日 原田誠一