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おわりに

 本書は,青少年の自殺予防プログラムを取り上げてきた。単なる解説書というよりは,本書を実際に利用して,プログラムを実施するためのマニュアルとなるように考えながらまとめたつもりである。わが国でもようやく青少年の自殺予防について少しずつではあるが,学校の現場で活動が始まりつつある。そこで,本書を改訂するにあたって,このような活動を続けてきた経験を持つ方々にも執筆者として加わっていただいた。
 青少年の自殺というと,一般の人々の反応はどのようなものだろうか。多くの親は「うちの子に限って」などと考え,教師も「青少年の自殺はとても稀なものだ。まさか私の生徒が自殺するはずはない」などと考えるのがごく普通だろう。しかし,このような反応は「私がよく知っている子どもたちに自殺などしてほしくはない」という大人の希望を表現しているだけなのかもしれない。
 大人がどれほど青少年に自殺の話題に触れさせないようにしたところで,実際にはほとんどの青少年がマスメディアを通じて自殺報道に接したり,自殺まで思いつめるほど悩んでいる同世代の仲間に向き合ったりしている。しかし,自殺をタブー視する世間の雰囲気を青少年は敏感に察知し,自殺について率直に語り合ったり,質問したりするのをためらってしまう。そして,当の青少年はこういった危機的状況にどのように向きあったらよいかわからず,すっかり困り果てている。
 このような現状の中で,わが国でも欧米のいくつかの国々で実施されているような青少年を直接対象とした自殺予防プログラムを開始すべき時期にきていると考える。「寝ている子を起こすな」というのは広く信じられている誤解のひとつである。真剣に取り上げるならば,自殺について話しあうことは自殺予防につながり,自殺を誘発するようなことは決してない。
 また,もしも青少年を直接対象とするプログラムを実施することにどうしても不安や抵抗が強いのならば,せめて教師や親を対象としたプログラムから始めてほしい。とくに,教師には,青少年の自殺の危険を早期の段階で発見し,適切な介入をするために,正確な知識を身につけておいていただきたい。青少年が発している救いを求める叫びに敏感に反応し,適切な対策を取るという重要な役割を教師は担っている。そこで,現段階で青少年の自殺予防について正確な知識を身に付けてもらいたい対象として教師を念頭に置きながら,本書をまとめた次第である。
 さらに,万が一,不幸にして生徒の自殺が生じてしまった場合には,本書で取り上げた対策をただちに取る必要がある。従来行なわれてきたような対応の仕方では,遺された他の生徒たちのこころの傷が癒されないばかりか,他の生徒たちにまで自殺の危険が迫る事態さえ起こりかねない。これはただちに実施されなければならない最優先課題である。
 また,本書では青少年が群発自殺の危険群である点も指摘しておいた。マスメディアによる報道が時には火に油を注ぐような結果になりかねない。しかし,マスメディアの否定的な側面ばかりを強調しても,そこからは何も生まれない。その報道の仕方によっては,マスメディアは青少年の自殺を予防するのに有用な情報を一般の人々に提供することもできる。本書の提言をもとに,これまで以上にマスメディアが青少年の自殺を慎重に報道するようになることを望んでいる。
 このように,青少年の自殺予防には,社会全体が協力して取り組んでいって,はじめて効果が現れるものである。青少年期のこころの健康は,後年のメンタルヘルスとも密接に関連する重要な問題である。したがって,青少年期の自殺の危機を真剣にとらえて,適切に対処しておかないと,長年にわたってこころの傷を引きずることになってしまいかねないのだ。
 本書で指摘してきた内容をもとに,現時点においても実施が可能な内容は何かについてぜひ検討していただきたい。この本を叩き台にして,地域や学校の実状に合った独自の自殺予防プログラムが作り出されることが望まれる。
……(後略)

2007年8月 著者を代表して   高橋祥友

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