編集後記

 岐阜大学精神医学教室は,正式名称を「岐阜大学医学部精神病理学分野」という。その名前の通り,精神病理学を旗幟に掲げる教室だ。人間の心を対象とする精神医学が,あたかも脳の科学であるかのような妄想に支配されている多くの大学を横目に,私たちはあえてこの教室に集い孤塁を守ってきた。そこには,時代と社会が何を求めているのかについての,自覚と確信があった。
 2008年3月,教室を主宰してきた小出浩之教授は,退官を迎える。薫陶を受けた者たちが感謝の意味をも込めて,それぞれの考える精神病理学の蒼穹と地平を著した書籍を上梓しよう。そういう提案が,退官の約1年前に,教室員の西尾彰泰から行われた。こうして,本書の編纂が開始されたのである。
 第1部は,教室研究会における小出教授自身の講義を収めることにした。テープ起こしは,天野雄平を中心に,纐纈慎也,宇佐美章靖,鈴木幹央,松原陽介,山下孝子の各若手教室員が担当し,これに西尾と高岡健が刈り込みを加えた。第2部は,拡大医局会員を対象に執筆者を募った上で,それぞれに執筆を依頼した。荒削りの論文もあるかと思われるが,集まった原稿は植木啓文と高田知二の両名が査読し,一部には加筆修正を求めた。第3部は,精神病理学を専攻する3人の先生方に依頼したエッセーから成り立っている。村上靖彦先生と鈴木國文先生は名古屋大学で,高橋隆夫先生は岐阜大学で,小出教授とともに仕事をされた方である。なお,校正には教室員の池田重雄が尽力した。
 本書は,小出教授の退官を記念して創られたものであるとともに,ささやかではあっても,未知の読者諸兄の関心に合致する内容を収めていると,私たちは信じている。

2008年早春   高岡 健