日本語版への序

 米国では,若者の自殺が1990年から2003年にかけて徐々に減少していたのだが,2004年には再び8%の増加を認めた。そして,10歳から19歳では,自殺は,事故死と殺人に次いで,第3位の死因になっている。このように,自殺は若者の重要な死因であるのだが,世界中の精神保健の専門家,家族,学校関係者はまだこの問題に対して十分に有効な対策を打ち立てられずにいる。
 多くの西欧諸国では,うつ病の若者に対して新しい抗うつ薬を処方することによって,当初は自殺率が下がったように思われた。となると,2004年に認められた自殺率の再上昇はどのように理解すべきなのだろうか。日本では15歳から19歳の年齢では,自殺は不慮の事故に次いで第2位の死因である。日本においても1990年代から新しい抗うつ薬が若年のうつ病患者に処方されているが,自殺率にどのような影響をもたらしたのだろうか。新世代の抗うつ薬が若者の自殺に及ぼす影響については今後も世界中でさらに検討すべき課題である。そして,薬物療法以外の治療法についてもますます関心が高まってきている。
 さて,世界中の精神保健の専門家はこれまで以上に心理社会的介入についてさらに知識や経験を増していかなければならないことは当然である。9つの無作為化対照試験によって,弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy: DBT)は成人の自殺行動を減少させることにもっとも有効な治療法であることが明らかにされた。そこで,私たちは自殺の危険の高いさまざまな問題を抱えた思春期患者にもDBTが有効ではないかと期待して,応用してきた。深刻な情動や行動の制御不全といった問題を抱えている思春期患者に対してDBTを実施してきたのだ。このような思春期患者はしばしば,うつ病,双極性障害,薬物乱用,摂食障害,行為障害,不安障害,境界性パーソナリティ障害といった,DSM-Ⅳ-TRの精神障害の診断基準を満たしている。思春期患者自身,その家族,そして精神保健の専門家たちは一様に,DBTは外来治療や入院治療において,共感に満ちた治療法であり,満足のいく効果が得られたと述べている。DBTを思春期患者に応用することに関して,パイロットスタディでは効果が期待されており,さらに現在,自殺の危険の高い思春期患者に対するDBTの効果を確認するために,ノルウェー,ドイツ,ニュージーランドなどで無作為化対照試験が実施されている。
 本書が日本語に翻訳されると知り,私たちはとても光栄である。なお,この治療法がすべての思春期患者に等しく有効ではありえないことについても私たちは謙虚に認めたい。しかし,精神保健の専門家,家族,そして思春期患者の多くの方々から,本書によって助けられたという言葉を受け取ってきた。自殺の危険の高いさまざまな問題を抱えた思春期患者を治療していくうえで,日本の読者の皆様にとって本書が何らかの手助けとなることを祈っている。

2007年10月   Alec L. Miller, Jill H. Rathus and Marsha M. Linehan