あとがき

 「まえがき」にも既述したように,編者代表としての筆者が,本書『トラウマとPTSDの心理援助―心の傷に寄り添って』を出版することを決意したのは,阪神淡路大震災から10年が経過した2005年1月に,本書添付のDVD「こころの傷に寄りそって―災害・被害のトラウマとこころのケア」を制作したことがきっかけであった。なぜ本DVDの制作を思いついたかというと,阪神淡路大震災後,インドアでの心理療法にはベテランの臨床心理士であっても,いざ災害や事件が発生した際に,現地で被災者に対してどんな心のケアを実施すればよいのか分からないという声をよく耳にしたからである。
 このDVDは主に大地震などの自然災害が発生した時や,学校などで犯罪事件が生じたときに,臨床心理士が現場におもむき,どのような心のケアを実施すればよいかを約31分にわたって解説したものである。しかしASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)は,単に地震や風水害などの自然災害や犯罪事件の時に生じるばかりではなく,交通事故,性被害,DV・児童虐待,少年犯罪,いじめ・不登校などからも生じるものである。
 そこで本書では,第1章「総論―トラウマとPTSD」,第2章「自然災害とトラウマ」,第3章「犯罪被害とトラウマ」,第4章「交通事故とトラウマ」,第5章「性被害とトラウマ」,第6章「DV・児童虐待とトラウマ」,第7章「少年犯罪とトラウマ」,第8章「学校事件への緊急対応」,第9章「トラウマとセルフケア」の合計9章によって構成し,各論として合計22の節を設けて分かりやすく解説した。すなわち人々が災害・犯罪事件・事故・青少年の問題行動などによって,なぜトラウマ(心的外傷)が生じ,どのようなプロセスをたどってASDやPTSDとして発症するのか,また臨床心理士はいかなる見立てによって臨床心理学的査定を行い,手立てとしてどんな臨床心理学的地域援助を行うのかを詳説した。
 各章の執筆者である佐方哲彦,高橋哲,冨永良喜,八木修司,織田島純子,吉澤美弥子,大原薫,本多修,堀口節子,大上律子,岡嵜順子,市井雅哉,森田喜治,佐伯文昭,村本邦子,齊藤文夫,平山由美,羽下大信,倉石哲也(執筆順)の各氏は,いずれも過去に発生した大災害,大事件,大事故などの際に,身を賭して被災者や被害者への心のケアや支援を初期・中期・長期にわたって担当してきた臨床心理士である。
 一部の執筆者たちは,日本臨床心理士会,日本臨床心理士資格認定協会,兵庫県臨床心理士会などの支援をうけて,単に国内の災害,事件ばかりではなく,スマトラ沖大地震,中国四川省大地震など海外で発生した災害への支援に,現在でも長期的にあたっている人たちである。執筆者たちのこのような長期間にわたる心のケアに携わる真摯な姿を見ていると,編者として「人間存在への謙虚さ」「人の命へのやさしさ」というキーワードがふと脳裏をよぎる思いであった。読者の方が,本書のいずれの章を読まれても,これらのキーワードがイメージとして浮かんでこなければ,ひとえに編者の非力によるものと御寛恕いただきたいと思う。
 本書が自然災害や人的災害を受けられた方々にとって,またこれらの人々を支援する臨床心理士たちにとって,現地におもむく際の必携のマニュアル本として活用されれば望外の喜びである。

2009年 新春 編著者代表 杉村 省吾