あとがき(1)

 最近,子どもの問題が巷で話題をさらっている。不登校,イジメ自殺,想像を絶する青少年の犯罪事件,さらには児童虐待,児童性愛など子どもが犠牲になる事件等々,枚挙に暇がない。いったどうなっているの? こうした声を至るところで耳にする。それは,ただ単に一般市民の間だけではなく,日ごろ子どもに接している人たちの間からも聴こえてくる声である。児童精神医学で研鑽を積んでいる者が,そうした声に応えるべく,現代社会の中の子どもたちを念頭に筆を振るったのが本書である。
 ただ私が本書に期待しているのは,児童精神医学が成人の精神医学の一領域に治まってきたこれまでとは違う様相を呈するようになった現代の児童精神医学の有様を伝えたかったことも告白しておきたいと思う。というのは,これまでの精神医学といえば,統合失調症と躁うつ病を柱に組み立てられていたが,さまざまな発達障害,ことに軽度の発達障害が精神医療ないしは一般社会の中にあって,さまざまな問題を呈するようになり,精神医学の中で新たな柱を形成するようになるのもそう遠いことではないという感じがしてならない。いわば,本書がこれからの精神医学のあり様に少なくない建設的な影響を及ぼす契機になればと望んでいる。
 新進気鋭の著者らの手になる本書がいろいろな意味で社会的な貢献をしてくれるであろうことを願って止まない。
…(後略)…

   牛島定信


あとがき(2)

 …(前略)…
 思いもかけず,編集に加わるようにと中根先生にお話しいただいた当初は先生の足手纏いになると,私は当初は固辞しておりました。けれど先生の児童精神科臨床の質的向上を切実に願われるそのお気持ちを伺ううち,ついお手伝いさせていただくことになり,編集作業を通して多くを学ばせていただきました。
 本書を編むに当たって,次のようなことが基盤に置かれております。①教科書ではなく,ユニークでかつすぐれて臨床に役立つ内容にする。②患者の年齢は基本的に18歳とするが,思春期以降の経過を論じることもあり,かつ司法関係の課題も関連するので,20〜24歳頃までを視野に入れて著述する。そして,児童思春期が人間のライフサイクルの中で持つ意味についても配慮する。③疾患名はDSM-ⅣないしICDー10を基準とするが,診断が治療の適切な展開を促し,役立つものであるように叙述する。④基本を踏まえながらも,最新の知見を盛り込み,発行後10年は新鮮さが保てるような内容であるように目指す。
 時代と社会の推移の中にあって,子どもの変容,とりわけ病理性を指摘する声がしきりです。しかし,子ども達の全てが変容し,変質してしまったのでしょうか。子ども達の行動の様相を捉えることに終始せず,表層の行動の背景にある要因や本質を理解し,潜在可能性を見出すこと,この両面に対してバランスを持つことが臨床には求められていると申せましょう。
 執筆者の方々はそれぞれご専門の領域から,これらの課題に対して,応えて下さったことに深謝いたします。

   村瀬嘉代子