はじめに

 本書は,臨床心理学の活動におけるアセスメントの役割と,そのための基本的な考え方を解説するものです。臨床心理学は,進歩しています。それにともなって臨床心理学におけるアセスメントの位置づけも変わってきています。本書は,そのような臨床心理学における最先端のアセスメントの考え方と方法を解説するものです。
 かつては,投影法などの心理テストや検査を実施することがアセスメントであるとみなされていました。あるいは,病態水準なるものを評価し,自らが依拠する学派の心理療法を適用できるのかを判断するのがアセスメントであるとみなされていたこともありました。しかし,このようなアセスメントの概念は,ある特定の心理療法の内でしか通用しない狭い考え方です。それに対して近年の臨床心理アセスメントは,心理的次元を超えて,生物−心理−社会モデルに基づき,生物的次元や社会的次元を含んだ総合的なアセスメントとなっています。
 その一方で,生物的次元を強調するあまり,DSMなどの医学的診断基準に基づいて心理的問題を分類することをアセスメントと同義とみなす傾向も出てきています。このようなアセスメント概念は,精神医学が心理的次元や社会的次元にまで領域を拡張する動きに取り込まれることであり,逆に臨床心理学が独自性を失い,精神医学の内に埋没していく危険性を孕むものです。このような精神医学の越境に対して,近年の臨床心理学は,精神医学の診断分類を超えて問題の心理学的な意味を見出していくケース・フォーミュレーションという,独自のアセスメント方法を開発してきています。
 本書は,このような臨床心理学の最新知見に基づき,臨床心理アセスメントの進め方を全23回の講義シリーズを通して解説したものです。序章と終章を含めて全9章から構成されています。
 序章では,「臨床心理アセスメントとは何だろうか」と題して,読者の皆さんに本講義シリーズのテーマについてのリサーチクエスチョンと,臨床心理アセスメントのアウトラインを提示します。
 次に第1章で「問題意識」と題して,日本の臨床心理学の課題を明らかにし,本講義シリーズが目指すところを示します。第2章では「医学的診断を超えて」と題して,精神障害をはじめとする障害を臨床心理アセスメントに統合的に組み入れていく枠組みを解説します。ここでは,生物−心理−社会モデルを前提とすることで,精神医学の診断分類を超える臨床心理学のアセスメントの意義を明確にしていきます。
 第3章では,「問題のメカニズムを探る」と題して,アセスメントの対象となっている問題の成り立ちを明らかにしていくための基本的枠組みを提示します。第4章では,「アセスメントを意味あるものにする」と題して,対象となっている問題が現実のコンテクストにおいてもつ意味を明らかにする機能分析の方法を解説します。ここにおいて,精神医学の診断とは異なる,臨床心理アセスメント独自の意義と方法が明らかとなります。
 さらに第5章では「介入の方針を定める」と題して,明らかにした問題のメカニズムに基づいて介入の方針を決めていくケース・フォーミュレーションの方法を具体的に紹介し,臨床心理アセスメント全体の進め方を解説します。第6章では「初回面接(1)」,第7章では「初回面接(2)」と題して,初回面接において臨床心理アセスメントを実践するための面接の具体的手続きを解説します。
 そして,最後の終章では,「改めて臨床心理アセスメントを考える」と題して,本講義シリーズで解説した内容を復習して講義を終わります。
 このように本書は,臨床心理学の活動におけるアセスメントの進め方を,最新の知見も交えて解説するものです。読者の皆さんは,本書の解説を通じて,総合的に心理的問題を把握するための枠組みを理解することができます。それは,臨床心理学,さらにはメンタルヘルスの活動全体における臨床心理アセスメントの意義と役割を知ることにつながります。