推薦

 この数年,短期療法と家族療法の第一世代として専門家の敬意を集めてきた開拓者らの訃報が続く。後に残ったわたしたちの世代は,彼らの遺したものをどう受け継ぎ展開をさせていくかに心をくだいている最中だと思います。本書の推薦者もそのひとりで,スティーブ・ディ・シェイザー,インスー・キム・バーグ,ポール・ワツラウィックという自分としては長く教えを受けてきた3人を相次いで失いました。日本はもとより,ミルウォーキーやジャズ祭まっさかりの南部の町でも一緒に「遊ぶ」という体験もさせてもらいました。スティーブはジャズ・クラシックが好きで,やや若い推薦者はレゲエに傾くという世代差はありましたが,遊びました。それは思い出だけになってしまいました。そんな中で本書に出会わせていただきました。
 バラ・ジェイソン著,日笠摩子先生ご監訳の『解決指向フォーカシング療法』。とても優れた著書だと感じました,上記の意味でです。内容は本書の最初の章の副題にもある「Briefly and Deeply」で端的に表されている,フォーカシングの体験的な深さとブリーフセラピーの時間的な有効性を統合しようとしたものです。著者らは執筆のはじめの時点で,自分たちはピュアー(純粋)であるよりも実践的な折衷家であると宣言します。折衷主義は実際にはなかなか難しいものです。折衷しようとするもの両者の差異をしっかりとつかまないと現場では役立ちません。その点だけをとっても本書はブリーフセラピーの入門書としても使えると思えるくらいの内容です。著者はフォーカシングを専門とし,その統合=折衷もフォーカシングの側からの歴史を踏まえています。インタラクティブ・フォーカシング・プロセスです。これは本書で初めて知りました。
 推薦者はブリーフセラピーの側にいますが,最近の関心は「自己」です。家族療法や短期療法にはもともとパーソナリティーや自己という概念はありません。ここで「いや,実はあった!」と言いたい誘惑にかられますが,それでは歴史を無視した薄っぺらな折衷主義者になってしまいます。本書の著者,バラ・ジェイソン氏には,そんな薄っぺらな統合主義者の態度をまったく感じません。違いを尊ぶ,とても公平な研究者で,それでいて創造力にあふれた実践家でもあるという印象を持ちました。
 ブリーフセラピー側からさらにリクエストをするとすると,ではこの解決指向フォーカシングで最近の日本の心理臨床家にその解決を要求されている,社会的事件,たとえば,性的異常行動や家族内殺人,虐待といった問題にどう対処するかです。本書を読みながら,性行動に問題があり,自身の再犯への傾斜を感じながら個人ではどうともし難い者への適用や,本書でも詳細に紹介されているコーチ付きのカップル・フォーカシングの応用などに期待させるものがあると感じます。

長谷川啓三