A・R・ファヴァッツァ著/松本俊彦監訳

自傷の文化精神医学
包囲された身体

A5判 490頁 定価(本体6,800円+税) 2009年5月刊


ISBN978-4-7724-1072-4

 リストカットなどの自傷行為の増加,あるいは,タトゥやボディピアッシングの世界的な流行にみられるように,自らの身体を傷つけ変形させることは,いまや広く見られる行動である。その一方で,それらは、重大な心理的苦痛や精神疾患の徴候という側面があることも事実であり,その全体像はいまだに十分に解き明かされていない。
 本書は,自傷行為の臨床と研究を志す者にとって避けて通ることのできない,現代の古典である。本書において著者は,「自らの身体を傷つけ,変形させる」という現象を,膨大な資料と症例を用い,歴史,民族,文化,そして生物学・精神医学という多次元的視点から,徹底的に検討している。
 第Ⅰ部では,人文科学的な観点から,人類が行ってきたさまざまな身体改造や自傷行為について論じられ,第Ⅱ部では,文化と臨床精神医学という複眼的視点から,身体各部位における典型的な身体改造や自傷行為が論じられる。また,第Ⅲ部では,精神医学的研究における自傷行為の定義や概念,分類の歴史的変遷が論じられ,著者自身の治療論も語られる。さらに,終章では,モダンプリミティヴ運動のカリスマ的哲人ファキール・ムサファーがボディピアッシングという社会現象について言及している。
 その包括性と多次元的視座ゆえに,本書は,精神医学というアカデミズムの枠を超えた,自傷行為に関する比較文化論の大著であるといえるであろう。

おもな目次

    第Ⅰ部 身体を傷つける行為をめぐる信念,宗教,食行動,動物行動学

      第1章 身体を傷つける行為をめぐる信念,態度,慣習,イメージ
        断頭と頭皮剥ぎ/血の儀式,癒し,死体虐待/サディズムと殺人/宗教における身体を傷つけるイメージ/一般美術における身体を傷つける行為に関するイメージ/文学作品における身体を傷つける行為
      第2章 創世神話,シャーマニズム,宗教における自傷行為
        創世神話/シャーマニズム/宗教/聖痕を有する者/精神疾患に罹患する者における自傷行為の宗教的な背景
      第3章 自傷行為,摂食障害,カニバリズム
        思考のための食物/性癖としてのカニバリズム/慣習・儀式としてのカニバリズム/トーテム,タブー,そして実体変化/うつ病
      第4章 動物にみられる自傷行為
        生化学的障害/限局性の生物学的障害/自由を奪われた動物における自傷行為/動物の自傷と人間の自傷の比較/補遺

    第Ⅱ部 身体各部の自傷行為:比較文化論的視点と臨床精神医学的視点から

      第5章 頭部および頭部の各部
        頭蓋骨と頭部/目/耳/鼻/口
      第6章 四肢
        手と腕/足/臨床症例
      第7章 皮膚
        タトゥ/スカリフィケーション(瘢痕成形)/「針山人間Human Pincushion」/皮膚を切る患者の症例研究/皮膚に対する自己切傷者の疫学的・集団的研究/施設内での自分を切る行為
      第8章 性器
        去勢/単睾丸術/陰茎切除/男性器の割礼/男性器封鎖/女性器切除/女性の性器自傷:症例提示/男性の性器自傷:症例提示/精神病症状を伴わない性器自傷について/性器自傷に関するコメント

    第Ⅲ部 自傷行為の鑑別診断と治療

      第9章 自傷行為の理解:文化的に是認された自傷と病的な自傷
        文化的に是認された自傷的な儀式や慣習/病的な自傷行為
      第10章 生物学的および心理社会的知見
        神経化学的知見/その他の生物学的要因/児童期における自傷の経験/自殺と自傷行為/自傷行為に関する心理学的理論とその心理的機制/自傷行為の社会学的説明/自傷行為に関する私的見解/本章のまとめ
      第11章 治療
        生物学的治療/心理・社会学的治療/本章のむすび

      終章 ボディプレイ―神に選ばれし者の証か,それとも病的な現象か?(ファキール・ムサファー)

関連書

    『自傷行為』 B・W・ウォルシュ,P・M・ローゼン著/松本俊彦・山口亜希子訳
    『自傷行為治療ガイド』 B・W・ウォルシュ著/松本俊彦・山口亜希子・小林桜児訳
    『自傷と自殺』 K・ホートン,K・ロドハム,E・エヴァンズ著/松本俊彦・河西千秋監訳