監訳者あとがき

 本書はニューヨーク認知療法センター所長のジェフリー・E・ヤング博士の“COGNITIVE THERAPY FOR PERSONALOTY DISORDERS : A SCHEMA-FOCUSED APPROACH”の翻訳である。ヤング博士は、認知療法の生みの親のアーロン・T・ベック博士のお弟子さんの一人であり,ペンシルバニア大学の認知療法センターの教育・研修部門のディレクターを勤めた後,ニューヨークとコネチカットの認知療法センターを創立し所長を務めている。すでにベック博士が,“Beck, A. T., Freeman, A. & Associates (1990). Cognitive therapy of personality disorders. New York: Guilford Press.”(井上和臣監訳:人格障害の認知療法.東京,岩崎学術出版社.)を著わしているが,この本の中でもヤング博士のスキーマ療法を紹介している。ベック博士のパーソナリティ障害に対する認知療法もヤング博士のスキーマ療法も,パーソナリティ障害の原因としてスキーマに焦点を当てている点では共通している。しかし,ベック博士の場合はパーソナリティ障害の診断分類ごとにスキーマを特定しているのに対して,ヤング博士は異なった方法をとっている。つまり,ヤング博士はパーソナリティ障害を引き起こすスキーマは子ども時代に形成される「早期不適応的スキーマ」であるとし,パーソナリティ障害の診断分類とは別に,スキーマの内容に沿って18種類のパーソナリティ障害を引き起こすスキーマを特定したのである。
 そして,パーソナリティ障害の認知療法をより効果的に進めるため,ヤング・スキーマ質問紙(YSQ),ヤング・リッグ回避目録(YRAI),ヤング養育目録(YPI),ヤング過剰補償目録(YCI),YAMI-PMといった数々の質問紙を開発している。すでに,金剛出版では,“Young, J. E., Klosko, J. S., & Weishaar, M. E. (2003). Schema therapy: a practitioner’s guide. New York: Guilford Press.”(伊藤絵美監訳:スキーマ療法――パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ――.東京,金剛出版,2008.)を出版している。この本は,本書よりも詳しい解説版であり,さらに詳しく学びたいときにはこちらの本を参照していただきたい。しかし本書の特徴は,スキーマ療法の実施上必要な,ヤング・スキーマ質問紙(YSQ),ヤング・リッグ回避目録(YRAI),ヤング養育目録(YPI),ヤング過剰補償目録(YCI),YAMI-PMがすべて付録でついている点である。本書は,1999年の第三版を基に翻訳したが,それには,ヤング・スキーマ質問紙(Long Form, 2nd Edition)しか付録に含まれていなかった。しかし,監訳者らは心理療法家がスキーマ療法を実施するために必要となってくる質問紙のすべてを含めて出版した方が多くの心理療法家の役に立つと考えた。ただし,多くの心理検査用紙が専門家にしか販売されていないことを考え,上記の質問紙を付録としてつけていいかということを監訳者らは考えたが,すでにヤング博士がスキーマ療法のホームページ(http://www.schematherapy.com/)で質問紙を公表していたことから付録として含めて出版することに踏み切った。また,すでにヤング博士が出版している一般向けのセルフ・ヘルプ本である“Young, J. E. & Klosko, J. S. (1993). Reinventing your life. New York: Plume”に各種の質問項目が分割されて示されていたことからも,本書に含めることにした。ヤング博士の開発された質問紙は,通常の質問紙と異なって標準化得点等を算出するようには作られておらず,その回答パターンを詳細に見てスキーマ療法を実施していくように開発されている。
 ところで,監訳者らがヤング博士に最初にお会いしたのは,2007年にバルセロナで開かれた世界行動療法認知療法会議WCBCTのスキーマ・セラピーのワークショップであった。そのワークショップで,ヤング博士ご本人が,開発した質問紙については適切な訳で各国語に訳され,できるだけ多くの人のために無償で利用されることを望んでいることを話しておられた。そのため,ヤング博士に本書に質問紙を含めたいとの意向を伝えたところ,すでに翻訳を許諾していた鈴木孝信先生を紹介され,本書に含めることができたものである。また,バルセロナのワークショップでは,赤坂クリニックが姉妹クリニック提携をしているソウルのMettaa Institute of Cognitive Behavior Therapyの所長で,Paik Hospital of Inje Universityの精神科臨床教授でもあるヤン・ヒー・チョイ(Young Hee Choi)博士も出席されていた。チョイ博士は,その時すでにスキーマ・セラピーをご自身の臨床に用いていると語っておられたが,2009年3月27〜28日に開かれた日本不安障害学会創立記念総会ではスキーマ・セラピーの効果について発表され,非常に効果的な治療法であることを示して下さった。また,翌29日に開かれた東京認知行動療法アカデミー(http://www.tokyocbt.com/index.html)の第13回ワークショップでも,スキーマ・セラピーについての指導を多くの臨床家にしてくださった。
スキーマ療法については,すでにInternational Society of Schema Therapyが設立されており,2008年にはポルトガルで第3回大会が開催されている。監訳者らは,わが国においてもスキーマ療法が広まり定着していくことを祈っている。

2009年6月吉日 福井至・貝谷久宣/不安・抑うつ臨床研究会