ケン・スティール,クレア・バーマン著/前田ケイ監訳/白根伊登恵訳

幻聴が消えた日
統合失調症32年の旅

四六判 280頁 定価(本体2,400円+税) 2009年10月刊


ISBN978-4-7724-1093-9

『1962年10月の夜,何のまえぶれもなく「声」がやってきた。僕は14歳だった。〈自殺しろ……自分の体に火をつけろ〉,という声が聞こえたのだ。ほんの数秒まえまで,ベッドサイドの小さなラジオでフランキー・ヴァリーというバンドの曲を聞いていた。「胸をはって歩こうぜ,かっこよく……」という歌だ。しかし,今聞こえた恐ろしい言葉はその曲の歌詞ではない。悪夢を見ているのだろうと思って体を動かしたが,眠っていたわけでもない。しつこくあざけるような声がラジオから聞こえてくる。〈首をつれ。おまえなんかいないほうがいいんだ。役立たずめ。まったく,どうしようもないヤツ。〉』
 ラジオを消しても追いかけてくる「声」。これが,ケン・スティールの32年にもおよぶ「幻聴」との闘いの始まりだった。「声」の命令のままに自殺願望を抱き苦悩するケンの病を両親は受け入れることができず,治療も受けさせてもらえず,17歳でケンは単身ニューヨークへ旅立つ。アメリカ中の精神病院を渡り歩き,ときにはホームレスになりながらも生き抜いたケンはある日,彼の人生を変える劇的な薬と出会う。
 この本は一人のアメリカ人男性の統合失調症との闘いの回顧録だ。当事者でなくてはわからない現実,微妙な気持ちの動き,アメリカにおける精神医療制度の光と影がくっきりと浮かび上がる。
 幻聴が消えた後の日々をケンはどう生きたのか? 彼は,当事者のための新聞『ニューヨークの声』の編集長となり,「メンタルヘルス有権者権利拡大プロジェクト」を推進し,2万8千人もの精神障害を持つ人びとの投票登録を支援するなど,アメリカ社会の精神疾患をもつ人々への見方を大きく変える偉業を成し遂げた。
 いま統合失調症と闘う人やその家族,精神医療にかかわる専門家,そしてすべての人々に,このすばらしいケンからの「声」を届けたい。

おもな目次

    プロローグ
    第1章 狂気への転落
    第2章 奈落の底へ
    第3章 大都会
    第4章 「恐怖の精神病院」へようこそ
    第5章 回転扉から出られない
    第6章 他の扉も閉ざされる
    第7章 二度目のチャンス
    第8章 幻聴が消えた日
    第9章 他の人たちの物語
    その後―今後の課題