ミシェル・L・クロスリー著/角山富雄,田中勝博監訳

ナラティブ心理学セミナー
自己・トラウマ・意味の構築

A5判 312頁 定価(本体4,200円+税) 2009年10月刊


ISBN978-4-7724-1101-1

 心理学は伝統的に「わたし」をどう捉えてきたか。著者はそれを歴史的にたどり,その延長上に「ナラティブ心理学」というポスト・モダンの学問領域が開花する経緯を理論的に跡づけている。そこには,中世からルネッサンスを経て近代,現代へと至る芸術活動の歴史と同じものが感じられる。「わたしとは何か」。近代人の「こころ」をよぎるこの叫び声がナラティブ心理学を誕生させた。著者はそう主張したかったのであろう。
 ナラティブ心理学の方法論的特徴は,「わたし」を「もの」や「観念」としてではなく,「自分史(自伝)」的な語り(ナラティブ)それ自体として捉えようとするところにある。「わたし」を語ることは「わたし」を知ることに繋がる。面接場面で,自分語りを覆うナラティブ・トーンの聴き取りや,典型的な比喩的表現描写の抽出,主要テーマの読み取りが重要な意味をもつのはそのためである。
 現代社会を生きる「わたし」の姿を,ナラティブ心理学の観点から浮き彫りにするために,著者は,性的虐待被害者やHIV感染者のナラティブに光をあてようとする。外傷体験や不治の病の宣告は,現代社会においてどういう意味を担わされているか。この問をさらに深めることで,時代の病理とその意味,さらには,権力,社会,モラルを支えるナラティブ構造の分析にまで繋がっていく。

おもな目次

    第Ⅰ部 理論および方法論

      第1章 自己とアイデンティティについての諸理論
      第2章 自己研究と論弁的方法論
      第3章 ナラティブ―今という時間を生きる―

    第Ⅱ部 応用編

      序文
      第4章 ナラティブを分析する
      第5章 ナラティブの記述と分析

    第Ⅲ部 現代社会への応用

      序文
      第6章 性虐待からの再生
      第7章 死にいたる病―HIV陽性診断〔エイズ〕を生きる―
      第8章 現代,そこに意味を見出す