あとがき

 1997年に開始した日本版TSCCの作成に向けた私の仕事は,12年を経た今,なんとか一応の終結を見ることができた。単なる臨床家に過ぎない私が,尺度構成という専門外の仕事に手を染めるに至った経過は,原版のマニュアルの「訳者あとがき」に記したのでここでは触れない(なお,日本子ども虐待防止学会の学術雑誌である『子どもの虐待とネグレクト』の第11巻第2号で,『TSCCマニュアル』の書評を担当してくれた甲南大学の森茂起先生が,「訳者あとがき」がもっとも面白いと評してくれている。まだ読んでないあなた,すぐに書店に走るべきである)。
 12年といえば,干支一回りである。これだけの期間を要したのは,原著者のBriereが言うように,尺度の開発には多大なるエネルギーと時間を要するからだけではなかろう。やはり,基礎心理学や精神測定学の知識を欠く私がこの作業を行ったという事実の関与は否めない(ちなみに,私も一応は心理学の学生であり,必修科目であった「心理学実験測定」は履修した。しかし,学生運動にかまけて,課題のレポートの大半を同級生に依存したという愚行のつけが回ってきたのだ)。TSCCの刊行を心待ちにされていた多くの関係者の方々には,お待たせしすぎたことを心よりお詫び申し上げる次第である。
 子ども家庭福祉,子どもの精神保健・医療,心理臨床,あるいは学校教育など,さまざまな領域において子どもの虐待がもっとも重要な位置を占めるようになった。であるにもかかわらず,わが国では虐待の影響のアセスメントに使えるツールがほとんど用意されていない。この事実が,私が日本版TSCCの作成に着手した動機の一つであった。しかし,本書の出版を持ってその作業が終結したわけではなく,むしろ出発点に立ったといったほうが適切かもしれない。今後,日本版TSCCをさまざまな領域の専門家に使っていただき,研究を蓄積していくなかでさらなる改良を加えていく必要があろう。また,本書に示したように,日本版TSCCの臨床尺度の主成分分析の結果のなかには,米国の原版TSCCとはやや異なった結果となったものもあった。この違いは,日米の文化差に起因している可能性は否定できない。今回は,原版TSCCとの整合性を重視したため,こうした違いを日本版TSCCに反映させることは控えたが,今後の研究課題としては重要な問題であるかもしれない。
 このように,日本版TSCCの臨床研究ははじまったばかりであり,また,本当の意味での「日本版TSCC」の作成にはさらなるエネルギーを要することになる。門外漢としての研究がいかに困難で苦痛に満ちたものであるか,今回ほど骨身に染みたことはない。日本版TSCCの今後の発展は,基礎心理学領域の若き研究者や,怖いもの知らずの若き臨床家に託する次第である。
……(後略)

2009年10月 著者を代表して 西澤 哲