あとがき

 本書の企画を思いついたのは,大学院の授業で学生の学外実習の発表を聞いたり,スーパーヴィジョンをしたりしていたときだった。病院での検査結果を医師にどう報告するかとか,学内の相談室でクライエントに検査結果のフィードバックをどう行えばよいかを一緒に検討する中で,参考になる本を学生に紹介しようと思ったのだが,適当なものがなかなか見当たらない。実際,他の人はいつどこで誰にどんな言葉で何分くらいかけてフィードバックをしているのだろう。こういうことが事例を通して具体的に書かれている本があれば勉強になるのに,という思いが募っていった。そこで,ないのであれば自分で作ろうと思い至ったわけである。
 しかし私ひとりでは書けないし,領域も多岐にわたったほうがよい。幸いなことにこの趣旨に賛同してくれる人が8人集まった。事例報告者はみな30歳前後。工夫を重ねながら自分のスタイルができつつある世代といったらいいだろうか。初学者にとっては,比較的若い人が書く方が親近感が持てるだろうし,何年間かの経験の中で試行錯誤しながら自分なりの考えややり方を見つけてきた姿には学ぶ点も多く,また励みにもなることだろう。
 第1章の最後に述べたような書き方で原稿を執筆してもらい,それを編者との間で3往復し,より具体的でわかりやすいものへと書き換えていただいた。ただし編者が手を入れたのは表現のわかりやすさの点だけで,事例の見立てや考察の中身については基本的に手を加えてはいない。
 提供された事例について理解を深めるために,経験豊富な臨床心理士にコメントをいただくことにした。コメント執筆者には,呈示された事例について心理検査の伝え方・活かし方を中心にコメントしていただいたが,その前提として事例の全般的な理解,検査導入や検査選択の的確さ,検査結果の解釈などについても適宜書いていただいた。また心理検査の伝え方・活かし方一般についての考えやそれに関連した自身の経験を披露していただいた章もある。
 職域に関してはある程度幅広くカヴァーしたつもりだが,教育領域,保健領域,リハビリテーション領域などについては取り上げられなかった。これは今後の宿題にしたい。
 守秘に関してだが,個人が特定されないように細心の注意を払ったほか,本書ではどの機関で行われた事例かが特定されないように,事例執筆者の所属先を明らかにせず,「精神科病院勤務」のように曖昧に記載した。ただし,現在の所属先がその事例を担当した場所と異なる場合にはそのまま記載してある。
 最後になりましたが,事例の掲載を承諾してくださったクライエントの皆様や所属長の方々に感謝いたします。また,事例執筆者から,原稿作成過程で多くの先生方,上司の方にご高閲いただき,有益な助言をいただいたと聞いております。まとめてお礼を述べさせていただきます。
……(後略)

2009年8月竹内健児