川谷大治著

自傷とパーソナリティ障害

A5判 224頁 定価(本体3,400円+税) 2009年11月刊


ISBN978-4-7724-1118-9

 自傷患者の社会適応は良くない。また,目まぐるしく変わる境界性パーソナリティ障害患者は治療者を悩ませることでも知られている。そして,自傷行為を行う患者の多くが境界性パーソナリティ障害と診断される。 本書は,長年パーソナリティ障害,自傷患者の治療に取り組んできた著者の患者との格闘ともいえる臨床研究の記録である。
 まず,自傷行為を理解する基盤として,精神分析的アプローチによる患者への解釈を解説し,さらに著者が臨床現場からフィードバックした実践的な治療技法を詳しく提示する。精神分析から出発した著者のアプローチは,治療者の影響を受けない患者のパーソナリティの改築をするにあたり,スプリッティングは「微妙なバランス」,「弁証法的態度」といった治療姿勢へと発展させ,投影同一化は「一人二役」論として概念化する,などの態度に現れている。また近年増加する解離性障害や発達障害との関連にまで論及し,現実的な対処の仕方を紹介する。
 精神科医,臨床心理士,看護スタッフなど,「自傷とパーソナリティ障害」に関わる人々に数多の臨床的知見を提供する手引き書となるであろう。

おもな目次

      はじめに

    Section1 自傷行為に関する文献的展望

      はじめに
      Ⅰ 自傷行為に関する文献的展望
        1.文献上の最初の報告
        2.メニンガーの『おのれに背くもの』
        3.リストカット症候群
        4.新たな自傷の研究の展開
        5.自傷行為と境界性パーソナリティ障害
        6.わが国における研究

    Section2 医療現場から

      はじめに
      Ⅰ 精神科クリニックにおける自傷患者
        1.自験例180例の調査結果
        2.先行研究
        3.治療成績の改善はどのようにして行われたのか
        4.自傷患者の臨床的特徴

    Section3 境界性パーソナリティ障害と自傷

      T 境界性パーソナリティ障害の診断と治療
        1.境界性パーソナリティ障害とは何か
      Ⅱ 境界性パーソナリティ障害の外来治療
        1.アメリカにおけるケースマネージメント
        2.なぜ,ケースマネージメントか?
        3.境界性パーソナリティ障害のケースマネージメントと問題点:精神科医の役割
      Ⅲ 境界性パーソナリティ障害の外来治療
        1.境界性パーソナリティ障害の外来治療の基本はチーム医療
        2.治療初期の優先事項
        3.境界性パーソナリティ障害治療の進め方
        4.実際の治療
      Ⅳ これからの問題
        1.自験例
        2.境界性パーソナリティ障害の寛解について
        3.「死にたい」と訴える患者の対応
        4.「死にたい」と訴えない患者の自殺企図は成功する

    Section4 解離と自傷:矛盾を抱えること

      はじめに
      Ⅰ 外傷と解離
        1.外傷トラウマについて
        2.解離と外傷について
        3.自傷行為における「解離」とは
      Ⅱ 解離と自傷
        1.外傷論から解離と自傷の関連を考える
        2.解離性障害における自傷行為について
        3.自傷行為を持つ解離性障害
        4.解離性障害におけるパーソナリティの成熟化と社会化
      Ⅲ 外傷の扱い方
        1.「誰が悪いのか」
        2.「葛藤を心の中に抱える」能力
        3.外傷を受けた患者は外傷を再び受けやすい
        4.外傷体験をどこまで聞くか
        5.外傷の経験を持つ患者はしばしば「怖い,怖い」と訴える
      おわりに

    Section5 自傷行為の心理療法

      はじめに
      Ⅰ 攻撃性について
        1.攻撃性の精神療法的アプローチに関する二,三の文献の紹介
        2.精神科臨床における攻撃性
        3.犯罪者における「攻撃性」
        4.「攻撃性」の精神療法
      Ⅱ 関係性を育てる心理療法
        1.自傷患者の心理療法の概観
        2.目指すは「関係性を育てる心理療法」
        3.日本文化の特徴
        4.自傷患者の心理療法の問題点
        5.関係性を育てる心理療法
      Ⅲ 関係性を育てる心理療法の技法
        1.解釈か劇化か
        2.フェレンツィの「劇化」
        3.ウィニコットの劇化
        4.羨望の扱い方
        5.「切るな」と言うべきかどうか
        6.境界性パーソナリティ障害患者のスプリッティング思考
        7.自傷行為における「一人二役」
        8.行動化を「叱る」ことの是非を巡って
      おわりに

    Appendix
    『漱石と心の病―その1』

      はじめに
      Ⅰ 漱石の「神経衰弱」について
        1.漱石の「神経衰弱」とは
        2.ロンドンに留学
        3.漱石帰国
      Ⅱ 作家としての漱石
      Ⅲ 『漱石』の生い立ち
        1.漱石の生家
        2.漱石の愛情剥奪体験
        3.漱石の養子時代
        4.父に疎んじられた漱石
        5.母千枝との関係は希薄
        6.悩む漱石
        7.復籍
      Ⅳ 漱石の根源的な不安

    漱石と心の病―その2』

      はじめに
      Ⅰ 漱石の作品
      Ⅱ 病からの脱出@ 客観視
      Ⅲ 病からの脱出A カタルシス
      Ⅳ 病からの脱出B 問題の明確化
      Ⅴ 病からの脱出C 矛盾を割り切らずに心に留めること 現実世界と心的世界の療法の経験が必要
      Ⅵ 病からの脱出D 己を貫き通すか共同体か 無用な人か有用な人か
      Ⅶ 病からの脱出E 無償の愛は心を救う
      Ⅷ 病からの脱出F 狂気を見捨てずに辛抱強く付き合う対象を必要とする
      Ⅸ 病からの脱出G 根源的な不安による現実喪失の理解
      Ⅹ 病からの脱出H 無償の愛は日常生活のそこかしこにあるものなのだ
      おわりに