おわりに

 私は,精神鑑定を通して尊敬すべき人々と出会い,偉大な人生を垣間見る幸運に恵まれてきました。
 法律家は,「正義」という崇高なテーマを生涯の仕事とし,日々,志を実現しようと努力されています。
 精神鑑定の対象となる事件は,被害者も加害者も多くは,元来「善良な市民」です。調書には,貧困,孤独,病苦などが綴られています。愚かにも則(のり)を超えてしまったという一点を除けば,この人たちの記録は,壮絶な人間苦として,畏敬の念すら感じさせてくれます。人間はこんなにもちっぽけな存在なのに,一人一人の人生は偉大です。
 2009年春,この刑事法廷に,新たに裁判員の皆様が加わりました。この良識の代弁者の方々も,市民の英知をもって審理に加わり,私どもをお導きくださることでしょう。
 これからも私は,精神鑑定という務めを果たしながら,人間について,人生について,勉強させていただきたいと思っております。
 この著を獨協医科大学に奉職する身として公刊できる僥倖に,大変な喜びを感じます。獨協医大を設置する獨協学園は,1883年ドイツの法律と医学とを日本に移入・普及することを目的として設立された獨逸学協会学校を,その淵源としております。以来,獨協は,医療,司法の両分野に多彩な人材を送り続けてきました。
 獨協の偉大な教育者天野貞祐先生は,「大学は学問を通しての人間形成の場である」とおっしゃいました。私も,2008年1月より獨協医科大学越谷病院にて,自身の「人間」を練磨させていただくこととなりました。「医と法」というテーマを,獨協の一員として追求させていただく幸福をお与えくださいました寺野彰獨協医科大学学長,筑田眞獨協越谷病院長をはじめとする先生方,関係各位に深謝申し上げます。
……後略

2009年9月 秋色深まる白子鳩の森にて 井原 裕