はじめに

 認知症高齢者は,2009年では,推計で約215万人の方々がいるとされており,6年後の2015年においては,約260万人台に達するとされています。その方々は,福祉施設や在宅(自宅)で介護の支援を受けているのですが,介護を受けている認知症高齢者の約70%以上の方々が,在宅で家族や介護サービスをする介護職者の支援を受けていると言われています。
 今後は,少子高齢化の傾向が加速度的,かつ継続的に進行して,1947.49年までに出生された戦後第一次ベビーブーム年代(いわゆる団塊世代)は,2007年より60歳代となり,2015年には65歳として高齢者人口を急増させる要因となるのです。その結果,高齢者層に占める認知症高齢者の人口比率も相似対象として増加の傾向を示すことになります。
 厚生労働省研究班(国立社会保障・人口問題研究所による認知症高齢者数の将来推計人口の算定2008年度の推計より)では,2015年には約260万人,2025年では約310万人,2035年約445万人と推計されています。これは,高齢者人口対比で,8.9 .15.4%を占めることになるのです。 平成18 年度からの「介護保険制度の見直し」(厚生労働省?)で,特別養護老人ホームへの入所が,重度介護認定者を優先することから,多くの中度軽度の認知症高齢者の方々は,自宅(在宅)での介護を受けることになるのですが,現実には家庭や家族構成,生活環境などの諸事情から,自宅での介護が施し難い状況にある方が非常に多く見受けられます。それが現実の問題であり,課題となることは必至です。さて,グループホームは,知的障害者・精神障害者を対象にしたものと認知症高齢者を対象にしたものがあります。本書が対象としているグループホームは,介護保険制度で記載された「認知症対応型共同生活介護(認知症高齢者グループホーム)」のことです。
 介護保険制度が導入された平成12年(2000年)では,僅かに266カ所でしかなかったものが,平成21年12月現在では,約10,385カ所となり,約39倍となっており急激な勢いで件数を増やしているのです。
 このような傾向がみられる要因としては,グループホームの設置主体が,公的機関よりも法人(社会福祉・財団・社団・営利企業),個人などが設置主体であることから拡大する要素があり,とくに営利法人(株式会社・有限会社など)の企業が,飛躍的に設置数を増やしているのです。
 本書では,個人が設置主体となり,私財(土地・家屋・資金)によって,NPO法人(特定非営利法人)として発足させた「グループホーム」を題材としております。その特性としては,
 ・小規模で多機能を活用させることを可能とする生活空間で,家庭的な雰囲気を醸し
 ・少人数(5.9人)の中軽度な認知症高齢者が,継続的に介助・介護を受けながら
 ・可能な限り,自立・自主的な生活行動をする場として,既存・残存している心身および知的機能を活用・啓発しながら共同生活を営ませ
  ることを目的
とするところにあります。
 また,グループホームでは,自宅に居る時と同様に,私服でお洒落をし,お化粧をして,手芸,園芸,読書,テレビなど,入居者が各々自由にして,各自がその都度の趣向に応じて,独自な過ごし,誰もが安らぎの時間を効果的に過ごせる環境・場としているのです。あたかも住み慣れた家庭(自宅)の延長のような環境を提供し,規則や制限,スケジュール管理などで拘束する生活の条件,要因などは排除されているのです。
 そのような環境で,認知症高齢者の方々は,名字名前は記憶されなくても,容姿や日常の共同生活を通じて認識される言葉や態度などで,互いに存在を認め合い,時に役割や担当分野なども,日常の共同生活を通じて,自然発生的に定められたことを尊重し,その役割や分担などを連携させながら個々人の存在価値やグループホームでの位置づけなどが確立されているようなことが多く見受けられるのです。認知症の高齢者の方々は,戸惑い,不安感に苛まれ,孤独に日々を過ごしているのです。
 認知症疾患には,医学的な疾患要因が,数多くあるとされています。代表的な認知症としては,アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症があります。アルツハイマー型認知症は,比較的女性の方に多くみられると言います。認知症高齢者の方々にとって,グループホームの役割は,医療的治療をする場ではなく,認知症高齢者を抱えて,悩み苦しんでいる家族や介護者への支援の場となり,そして完治が困難とされる認知症状の進行を一時的にでも遅らせたり,可能な限り安定した症状を持続させる場となることにあるのです。
 そしてそのスタッフたちは,認知症高齢者の方々がグループホームでの生活を通じて,人間としての尊厳を保ち,家族的な雰囲気を醸した共同生活となることで,やがては逝くさだめある命を可能な限り“生きる”ことへの意欲や意味づける場となり,“終の棲家”となることを願っているのです。
 先述の通り,高齢者が増加し,それに対比して増加する認知症高齢者の方々に,既存の福祉支援の施設では対応することが,現況の諸要因(設置件数・介護職員・設置条件)を考慮した場合,限界的な状況にあるとされております。諸外国の福祉先進諸国では,グループホームの役割が,認知症高齢者に対して,効果的な収容規模や介護支援の人材的支援が,有効的・機能的に施されていると共に,その機能や役割が重視されているのです。認知症疾患は,今や他人事ではないように感じます。認知症疾患者を「隔離」したり,「拘束」したりしてしまうことは,あまりにも安易で,そのことによって,認知症疾患者に対する「人としての尊厳」が失なわれてしまうことは,哀しいことです。如何なる場合においても,そのような行為をしてはならないことなのです。
 本書を通じて,「グループホーム」についての内容や事例の一端をご理解いただき,またご関心を頂けますことを願っております。

2010年1月25日川上正夫