おわりに

 本書で紹介したグループホーム「あかね」は,平成12年に施行の介護保険制度によって導入された“認知症対応型共同生活介護”として登場した福祉施設です。
 本文でも書きましたが,グループホームは介護基準整備目標として,5カ年計画(ゴールドプラン21)では2004年(平成16年)までに介護サービス基盤整備,生活支援対策の一環として3,200カ所設置することを組み込まれました。ところが実状は5カ年計画での予想以上の設置件数が急激な速度で設置されました。
 この認知症対応型共同生活介護は,一般社団法人日本認知症グループホーム協会によりますと(平成21年12月7日調査),全国で団体法
人は7,093件の経営主体で,事業所件数が10,385件の事業所施設が設置されております。その内訳は,団体法人7,093件[医療法人1,306件(事業所数1,794件),社会福祉法人1,692件(事業所数2,274件),NPO法人424件(事業所数529件),株式会社・有限会社3,572件(事業所件数,659件),その他の法人99件(事業件数129件)]となっております。
 また,認知症老人グループホームは,〈介護保険の給付対象となる居住サービスであり,要介護者(介護認定者)で認知症の症状(中軽度)を発症している者が対象であり,[認知症老人向けグループホーム]で,共同生活を営み,入浴・排泄・食事などの介護や支援を受けて,日常生活での世話および既存・潜在している身体的・知的などの機能訓練をするサービス施設設定がされている。但し,認知症の症状が重度になり著しい精神行動や行動異常などを有する者は,入所の対象としていない。〉(介護保険法第7条15項)とされております。
 そして,これらの諸団体による介護保険サービス提供事業所は,ゴールドプラン5カ年計画では,介護保険サービス適用の事業所の指定は,都道府県が行っていたのですが,平成18年の第一次介護保険制度の改革(一部平成17年)による実施事項では,地方分権が強調され,地方自治体の裁量権(地域密着型サービスの指定権限など)の移行が行われたことから急増しているのです。その結果,グループホームに関する指定権限は,地方自治体(市区町村)になり,地密着型サービスと位置づけられたのです。
 そのために,地域差(高齢者数,福祉施設の設置状況,介護保険費など)により,設置件数などに格差が生じてくるのです。そして,全体的には営利法人(株式会社・有限会社など)での増減変動が顕著にみられ,医療法人でも若干の変動を生じさせているのです。
 いずれにしましても,認知症対応型共同生活介護・介護予防認知症対応型共同生活介護としてのグループホームは,高齢者人口の急増傾向によって,相関的な増加傾向を生じさせている介護難民と称される要介護認定者の高齢者を受け入れる役割を有するようにもなっているのです。
 平成37(2025)年には,独居高齢者が717.3万人となり(平成21年版高齢者白書・内閣府),緊急時に備えて「心配事がある(63.0%)」「頼れる人が居ない(30.7%)」という回答(2005年内閣府「一人暮らし高齢者に対する意識調査」)がされています。これは平成14年に実施した結果と比較して,いずれも数値が増加しており,1.5倍と1.8倍の増加をしているのです。
 団塊世代の方々は,一般論的には高学歴,高収入,機器操作が堪能であるとされ,高齢者,即ち老人としての従来感覚とは異なり,自意識を自覚・堅持させながら福祉的な対応を受容させることに,かなりの困難を伴うものと思われます。
 本書に登場するグループホーム「あかね」の入所者は,各々が自分なりの人生を精一杯に生きたという自負心や自意識を,認知症と称される脳萎縮・脳血管障害による病気が進行してゆく過程においても自覚をし続けているのです。失禁・失語・徘徊・認識障害などの認知症による症状を発症させながらも,“今を生きる”ことに懸命になっております。
 認知症を発症させた方々は,初期段階で,多くの方々が呆然とし,情緒不安定になり,時には死さえも考えることがあるのだそうです。つまり,中核症状(記憶障害・見当識障害・思考障害・抽象的表現能力障害),周辺症状(中核症状に心理的・状況的な要因や要素が加わって発症する障害)があっても,人間的な尊厳は失われてはいないのです。
 またその対処療法として医療的に専門的なものがありますが,“説得より納得”(元国立菊地病院院長室伏君士博士『認知症ケアの先達』)が必要なのだと言われています。
 すなわち,道理的や理論的な説得よりも,人間的な馴染みを通じての安堵感,安心感が最良の処方箋であり,それが仮に虚構のものであっても,安らぎの要因ならば同化することが良いとしているのです。
   本書をお読み頂きました方々には,それぞれいろいろな思いをお感じ下さったと思います。認知症の方々は,日々の経過が不安であり,焦燥感で耐え難い心情にあるのです。
 “大切なものが,徐々に失われてゆく”,“大切な人の顔も名前も突然に消えてしまう”,“自分が自分に苛立ちを生じさせる”,“自分が失われてしまう”ようなことが,読者の皆さんに生じたとしたら如何しますか。
 登場人物は,著者が過去に接触した人物を題材に脚色したものです。ほとんどの方は,すでに鬼籍に入られましたが,当時のことを回想いたしますと各々の生き様には,感銘するものが多くあります。
……以下略

2010年1月25日川上正夫