あとがき

 近年,精神科医療にとどまらず,がんなどの重病の患者や家族の心理的ケアや病気の予防などの保健活動においても心理職の関与が必要とされるようになっています。その結果,医療・保健サービスに専門的に携わるために知識と技能を備えた心理職が強く求められるようになっています。ところが,わが国の臨床心理学は,スクールカウンセリングにみられるように教育領域を中心に発展してきたこともあり,医療・保健領域で他職と協働するための心理職の教育訓練が進んでいませんでした。
 このような状況を打開するため,編者は,文部科学省科学研究費補助金(基盤研究B,課題番号19330153,研究課題名:医療領域における臨床心理研修プログラムの開発・評価研究)を得て2007年から2009年にかけて医療・保健領域で活動できる心理職を育てる臨床心理カリキュラムを研究してきました。研究を通してわが国の指定校と呼ばれる臨床心理学大学院のカリキュラムでは,@各教員によって教える内容が異なっており,臨床心理学についての全体像がつかめない,A研究活動の教育がほとんどなされていない,B心理相談室の個人療法と,現場でのチーム活動の発想が異なっているので戸惑う,C臨床現場に出るための専門教育がなされていない,といった問題点があることが明らかとなりました。 そこで,医療・保健領域で活動できる心理職を育てるためにカリキュラム案を新たに構築することにし,そのために必要なテキストや副読本を広く検討しました。その際に,世界の臨床心理学の標準モデルとなっている@科学者−実践者モデル,Aエビデンスベースト・アプローチ,B生物−心理−社会モデル,C認知行動療法の4点を新たなカリキュラムの基本的枠組みとしました。その成果が本書です。したがって,本書は,文部科学省科学研究費補助金による研究成果の報告書という意味合いをもっています。
 本書の作成にあたっては,論考の取りまとめ役として当時私の研究室の学生リーダーを務めていた林潤一郎さん(現.東京大学学生相談所 助教)に,また,出版に際しては,当初の担当であった前金剛出版の小寺美都子さん,そして作業を引き継いでいただいた金剛出版の中山真実さんにお世話になりました。記して感謝いたします。

2010年盛夏 下山晴彦