監訳者あとがき

 本書が出版された2002年の夏,著者のイブ・リプチックさんがご主人と共にはじめて来日されました。ブリーフセラピーネットワーク・ジャパン大会が札幌で開催され,そのワークショップ講師として,私たちが彼女を招待したのです。彼女のワークショップにおける介入はとてもマイルドで,参加者は皆,優しい気持ちに包まれました。というのは,これまでの,ともすれば,技法中心になりがちが解決志向アプローチとは,全く異なるワークだったからでしょう。人の話をよく傾聴すること,情動を大事にすること,さらには,セラピー期間の長短よりも,効果的なセラピーであることをしっかりと提示してくれたのです。これらのセラピストの姿勢は,心理療法の世界においては,もっとも大切なことですが,ブリーフセラピーの世界においては,どちらか言えば,その奇抜な技法の方に焦点があてられがちであったし,今もそのような技法に魅力を感じている人もいるでしょう。
 本書は,解決志向アプローチがこれまでも大事なセラピーの前提としていたにもかかわらず,明確な焦点をあてて来なかった傾聴や情動の扱い,および長期の事例や終結に関する考え方を,理論と実践の両面から具体的にわかりやすく述べています。その意味で,解決志向アプローチの完成版であり,どの人にも是非,学んでいただきたい内容に満ちています。特に「変化」を志向する立場の人は,たとえオリエンターションが異なっていても,心理療法の効果に貢献する共通要因を本書から見出すことができるでしょう。
 翻訳は彼女の来日をお世話していただいた,山田秀世さんをはじめとする,北海道の先生方にお願いしました。より正確には,自発的に是非,翻訳したいとの多くの声がワークショップ中にすでに挙がっていたのです。また,河野梨香さんに共監訳者として入っていただきました。しかし,私の仕事が遅く,翻訳を始めてから長い月日が過ぎてしまいました。訳の原稿は,私の研究室の院生たちと特別ゼミの中で再検討され,監訳が進行しました。彼らの中には特に訳者として参加してもらった人もいます。院生の皆さんには,たいへん感謝しています。そして,最後に窪田文子さんにお忙しい中,共監訳者として新たに参加していただき,訳語のさらなるチェックをお願いしました。
・・・・・・後略

2009年 虫の音のオーケストラを聴きながら
監訳者代表 宮田敬一