はじめに

 本書は子どもの心とかかわるスクールカウンセラー,心理士,養護教諭,学校教師,ワーカーや看護師・保健師などの専門家とそれを目指す学生を主な対象とした臨床心理アセスメントのハンドブックです。
 子どもの心を援助することの第一歩は,まずはその子どもを理解することから始まります。理解するということは,子どもの心に寄り添いながら,客観的に子どもの状態を見立てる作業を行うことといえます。つまり臨床心理アセスメントとは,対象に対する援助の方針を立てるための作業であり,それが行われて初めて子どもとのかかわりが心の健康回復や発達促進の援助として生きてくることになるのです。
 さて昨今の心理学,医学あるいは科学領域ではエヴィデンスの潮流が大きな流れの1つになっています。臨床心理学分野ももちろん例外ではなく,認知行動療法の隆盛も背景にはエヴィデンスの流れを汲むものといえます。こうした科学実証主義の姿勢は現代社会のさまざまな面に影響を与えているように思われます。一方,もう1つの大きな流れとして個別性に焦点づけたナラティヴの潮流が挙げられます(これについては第T部第1章に詳しく述べられています)。
 こうした時代の流れの中で,本書は2つの視点を大切にしています。すなわち,1つは,エヴィデンスに拠る客観的な理解と同時に「個別的存在として子どもの心を理解する」という視点です。これは例えば心理検査によって集団の中の位置づけを客観的に把握するだけではなく,そこに表出された個別性も汲みとってゆこうとする姿勢です。そしてもう1つは「子どもを取り巻く環境を理解する」という視点です。子どもがひとりで生きてゆくことは大人以上に困難であることはいうまでもありません。子どもとは取り巻く環境の影響を大きく受けながら成長・発達する存在です。子どものアセスメントにおいて,そうした環境を含めて理解しようとする姿勢はとても大切なものです。
 本書ではこの2つの視点を重視することで「子どもの全体像」をアセスメントし,援助の方針を立て,そしてかかわりを実践するという過程を理解することができるような構成になっています。
 具体的には,第T部は子どものアセスメント,面接法,観察法と検査法の概論で構成されています。第U部では乳幼児期における子どもと環境のアセスメントの各論で構成されています。第V部は児童・思春期における子どもと環境のアセスメントの各論で構成されています。そして第W部ではアセスメントと援助の実際について事例を通して理解を深めることができるように構成されています。付録として,子どものアセスメントから援助方針の立案までの流れがチェックできるようなフローチャートを付けました。実践の際の参考にしてください。また各部の間には,現場で子どもとかかわっている専門家のほろ苦い体験やちょっとした実践のコツなどがコラムとして挿入されています。実際の現場をイメージしながらティーブレイクとして読んでみてください。
 巻末には,本書で紹介している検査などの販売元や参考文献が掲載されていますので,さらに詳細に学んだり,検査を購入する際の参考にしてください。専門用語については初学者の方にも理解できるように初出の際に脚注として解説を加えました。
 なお本書では「障害」と「障がい」という両方の表記で記載されていますが,DSMの診断名などについては従来の記載の通り「障害」と表記し,それ以外は「障がい」としました。また本書で紹介されている事例は本人の許可を得て個人が特定されないよう改変したり,複数の事例を組み合わせて作った架空の事例であることをお断りしておきます。
 本書が子どもとのかかわりの実践に役立つことを願い,また専門家を目指して勉強中の皆さんは,本書を通して臨床心理アセスメントに対するイメージが一層明確になることを願っています。
 そして本書が,子どもたちの心の健康に少しでも貢献することができたら編者としてこれ以上の喜びはありません。
 最後に,本書の企画・編集に際して,金剛出版の弓手正樹氏にはいつも温かいご指導と励ましをいただきました。ここに記して感謝申し上げます。
 本書の企画・編集に際しては,日本学術振興会基盤研究(B)の研究助成を受けたことを記して感謝します。

平成22年 夏 編者