あとがき

 2008年10月,著者は,ポール・スタラード教授のワークショップの通訳を引き受け,それがきっかけとなり本書の作成が始まりました。ワークショップを通してスタラード教授が常に子どもと親とセラピストのコラボレーションを強調していたことが印象的です。また,子どもの話を正確に理解しながら聴くということの本当の意味を学びました。それがセラピーの土台となる関係作りなのです。子どもとセラピストの間で築かれた心の通った関係がなければCBTのすばらしい技法も役立ちません。本書で紹介されるCBTはまさに「子どものための」ものであり,それは子どもの個性に合わせてできたテイラーメイドのCBTなのです。
 共著者のスタラード教授は,現在英国バース大学で児童と家庭のメンタルヘルス部門の教授職にあります。トラウマや慢性病を抱える子どもの心理援助と,その効果研究で数多くの論文があります。また,国をあげてのプロジェクトである,PROMISE(Promising Mental Health in School Through Education)では,スタラード教授が開発した公立の中学校におけるうつ予防の心理教育プログラムが広まっており,英国の臨床心理学では児童臨床のリーダー的存在です。2002年に出版された“Think Good-Feel Good : A Cognitive Behaviour Therapy Workbook for Children and Young People”と2005年に出版された“A Clinician's Guide to Think Good-Feel Good Using CBT with Children and Young People”は,下山教授が監訳し,2006年に金剛出版より『子どもと若者のための認知行動療法ワークブック』,2008年に『子どもと若者のための認知行動療法ガイドブック』の題名で出版し,好評を博しました。それぞれの出版を記念してスタラード教授が来日し,ワークショップも開催しました。
 2冊の前書を経て,いよいよ日本の文化にあった子どもと若者のためのCBTを考える時が来ました。本書は,子どもと若者のためのCBTのポイントがわかりやすく解説されています。日本の子どもたちにも生かせるCBTとしてケースが提供され,具体的にCBTの応用の仕方が分かるようになっています。さらに,心理教育プログラムが紹介され,CBTが個人面接だけではなくグループを対象とした心理教育や予防活動などにも幅広く実践できる実用的な1冊になっています。
 ワークショップ後,2009年5月,著者は,英国バースにスタラード教授を訪ね,CBTをベースとした心理教育プログラムやコンピューターを使ってできる子どもと若者のためのCBTの実践に参加してきました。公立中学校における実践や大学内のスーパービジョンに参加し,チームの人達と交流を持ち,大学の寮に宿泊するという貴重な経験でした。10年前,レディング大学を卒業した時には苦しみの方が大きかったので,まさか自分が念願の臨床心理士になり,自らの意思でまた英国の大学キャンパスに足を踏み入れるとは夢にも思っていませんでした。でも,10年後の現実は,臨床心理士として経験を積んでいる専門家として,日英の比較を通してさまざまな気づきを得て日本の臨床現場でもぜひ生かしたいと思えるようなアイディアを多く得て帰国しました。そのアイディアを少しでも日本で活躍している読者のみなさんとも共有したいという思いもあり,この本を出版しようと思いました。現在,下山研究室では日本の子どもの文化により即したCBTの研究が進捗していますし,CBTをベースとした心理教育プログラムを実施しています。このような研究,実践も仲間がいるからこそできるということを日々実感しています。
 最後に,本書の完成にいたるまで,終始励まし,助言してくださった臨床心理士の仲間の方々と,本の執筆に全力を尽くせるようにサポートしてくれた家族,そして出版にあたって本書編集者担当の藤井裕二さんをはじめとする金剛出版の皆様には多大な協力をいただきました。感謝いたします。

2010年8月 著者を代表して 松丸未来