まえがき

 心理学を専攻している学生は,実習科目のひとつとしていわゆる基礎実験演習を履修します。一般的にこの科目は大学2 年生を対象にしており,心理学のさまざまな基本的テーマが含まれます。学生は少人数のグループに分かれて実験を実施し,1 週間程度でレポートにまとめて提出し,添削結果を教員から受け取るというサイクルを繰り返します。本書は,心理学を学ぶ多くの学生の皆さんの実習およびレポート作成の手助けとなることを目指して執筆されました。
 実験を実施してレポートにまとめる作業には,文章や図表の作成から,文献検索,データの分析,結果に基づいた考察などのさまざまな要素が含まれており,複数のテーマを次々とこなしていくことは,多くの学生にとってかなり大変なことです。心理学の実験レポートや卒業論文の作成には,守るべきルールが多数あり,いかに形式に従い体裁を整えて書くように指導するか,日本中の大学でさまざまな工夫が行われています。さらに,正しい日本語で文章を書くことや,序論や考察のストーリー展開など,学生に修得してもらいたい点を挙げだすと限りがありません。ですが,これらのレポート作成能力を身につけることは,卒業論文執筆に向けての基本であり,社会に出てからもさまざまな場面で役に立つはずです。学生の皆さんには自己表現力を伸ばす訓練のひとつとして,一生懸命に取り組んでほしいと日々願っています。
 本書は,文章を書くことやレポートのストーリーを考えることが苦手で,またデータの統計処理をどうしたらいいのかよくわからないという学生でも,この一冊があれば自分でレポート作成になんとか取り組めるということを目指しています。近年,実習指導をしていて特に難しいと感じるのは,レポートの目的(序論)と考察の部分に,どのような内容をどういうふうに書いたらいいのか自分の頭で考えられない学生が多いことです。自分で考えることを放棄し,手っ取り早くインターネットから関連記事をコピー&ペーストしただけのレポートや,数行で終わるようなレポートがときどき提出されてきます(もちろん,再提出を求めますが)。
 どうしたら適度な分量で,適切な内容の目的や考察を学生が書けるようになるのか,その手助けになるようなテキストを作成したいと編著者で話し合いました。そこで,本書ではテーマごとに導入の序論部分には,キーワードを含んだレポートの例文となるような書きだしのみを掲載し,その例文中の適切な箇所に数個の課題を提示しています。「目的」では,重要なポイントは自分で文献を調べて考えて文章をまとめ,埋め込んでいくかたちでストーリーを展開できる構成にしました。同様に,「結果」「考察」部分についても,テキストに記述された順番に,参照すべき結果や考察すべきポイントを掲載しました。
 また,レポート作成の中でもかなりの難関である統計処理については,Microsoft Excel やSPSS を利用して分析できるように付録をつけました。心理統計法や統計ソフトの使い方については多くのテキストが出版されていますが,自分が実施した実験のデータ処理にどの種類の検定を用いたらいいのかわからない,あるいは要因数や水準数がテキストの例題と異なる場合に統計ソフトをどうやって使ったらいいのか応用に困ってしまう学生もいます。本書ではそのような点を考慮して,前半部分の章で実際に取り上げられている要因計画にそった実験データを用いることにしました。このような形で本書を作成するにあたり,学生の皆さんにとって実習からレポート作成まで一冊でトータルに役立つ本となるように,草稿を用いて2009年度に東海学院大学で実際に実習を行った上で改稿するという手順をとりました。実習担当の先生方にご意見をいただき,また学生から提出されたレポートを反省の材料として課題の難易度などを再検討し,執筆者一同で改稿しました。
 原稿作成当時に東海学院大学の心理学実験をご担当いただいておりました大杉尚之先生,岡田順介先生,小澤良先生,島義弘先生,志邑みさき先生,林正道先生からは,各実習テーマにつきまして本書草稿だけでなく実習方法やレポート課題にわたり多くの貴重なコメントをいただきました。先生方や学生の皆さんのご協力なくしては完成することはできなかったと思います。また,学生の教育のためにと本書の出版をご理解くださり,学校法人神谷学園から助成金を賜りました。本書に関わってくださいましたすべての皆様に深く感謝いたします。
 最後になりましたが,本書の企画から快くご相談にのってくださり,原稿作成から出版まで温かく支えてくださいました金剛出版編集部の藤井裕二氏に心からお礼を申し上げます。

2010年8月 編著者