あとがき

 このたび,こうして本書が完成したことをとてもうれしく思っております。
 本書執筆のきっかけは,筆者がケースプレゼンテーションのしかたに関する講演をしたことから始まりました。以前から参考書のような本を書きたいという気持ちは漠然とありましたが,実際に書き始めようという気持ちはまだ固まっていませんでした。その懇親会の席で筆者が師と仰ぐ大隈紘子先生から「絶対に書きなさい」と強く勧めていただいたおかげでスイッチが入ったといえます。
 その後,まずは自分で第二部までを一気に書いてみました。そして,その時点である方に相談してみましたが,その反応はかんばしくなく,「おもしろいとは思うが内容が筆者の専門分野に偏っている」とか,「ケースプレゼンテーションの方法に関する本というものにそれほど需要があるとは思えない」などの指摘を受けました。
 正直ムッとしましたが,内容が偏っているとの指摘は一理あると思いました。一方で,自分としては,強迫症状の治療は介入の前後の変化を明らかにしやすい特徴があるので行動療法の考え方やまとめ方を伝えるのには非常に適しているという考えももっていました。また,自らの得意なところを書いた方が読者に対して説得力をもった説明ができるとも考えていました。そのようなわけで,頑固を貫いて第二部のケースは変えずに,第四部に専門用語の解説を加えるという手段をとることにしました。
 また,ケースプレゼンテーションの方法を書いた本の需要については,第一部でも述べたように,筆者はケースプレゼンテーションの準備や発表をすることが臨床現場の活性化につながるという体験を多くしてきたので,きっと需要はあるだろうと信じることにしました。さらに,第三部として,行動療法の専門ではない医療関係者でもケースプレゼンテーションを自分で作成しやすくなるようなシートとその参考例を追加することにしました。
 そんな折,雑誌「精神療法」から「行動療法家の訓練」というタイトルの原稿依頼がきたことをきっかけに,金剛出版に原本を送って本の出版のお願いすることに決めました。まさに,漫画家や小説家が自分の作品を売り込む時の心境とはこのようなものかなと思いました。その際に同出版社の高島徹也さんらが快く引き受けてくださったことをとても感謝いたしております。
 本書の作成に関しては,筆者が現在勤務している奥村病院の方々に大変お世話になりました。そのなかでも,一病棟スタッフ(第一部の具体的なプレゼンテーションの例),山口和彦看護師ら三病棟スタッフ(第二部の症例E),行徳真理作業療法士,吉岡由美看護師ら重度認知症デイケアスタッフと古賀寛院長(第三部のケースプレゼンテーションの参考例)には資料提供や専門的な助言など多くの協力をしていただきました。また,梅根眞智子理事長と平川美津子看護部長には全編を読んでもらい貴重なコメントをいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。振り返って考えてみると,筆者は中学,高校の時から参考書や問題集の構成に関心をもっていました。どのようなレイアウトだと見やすいか,記憶に残りやすいかなどに注目しながら本を選んでいました。そして,いつかそのような本を書いてみたいと当時思っていたことを覚えています。そのような子どものころからの願望もあったせいか,図のレイアウトを考えるのは楽しい作業でした。そして,スライドと読み原稿を照らし合わせながら読めるようなレイアウトを作って金剛出版に送ったのですが,やはり餅は餅屋で,同出版社の北川晶子さんには,原本のコンセプトは変えずに,とても洗練されたレイアウトに作り変えていただきました。また,こちらのわがままな要求をきいてもらったり,適宜鋭い意見を出していただいたり,など大変お世話になりました。どうもありがとうございました。
 最後になりますが,この本が精神科医だけでなく,看護師,作業療法士,臨床心理士,ソーシャルワーカーなどいろいろな医療関係者に多く読んでいただけることを願っております。