さいごに

 「臨床心理学と社会心理学とをつなぐ研究と実践に携わりたい」との志を立ててから,はや20年の歳月が経った。こうして自分が関係した研究が1冊の書にまとめられると,「思えば遠くへ来たものだ」というありがちな感慨とともに,「なんなんだね,これは」「結局あなたは何者なのよ」という自己批判の声や「自己注目の研究をさらに掘り下げていけばよかった」という後悔も出てくる。
 これまで縁があるまま誘われるがまま多くの研究に関わってきたが,流行を追いかけるようなミーハー・マインドで研究をしたことはない。自信家の対極にあるような私だが,人に誇れるとしたら,信念をもって仕事をしてきた点だろうか。
 もうひとつ,私の支えとなっていたのは,恩師や同士の存在である。たくさんの方々にご支援をいただいたが,これも書き出すと数ページを費やすので,あえて絞ってこの場で述べたい。なお,所属は当時のものである。
 真っ先にあげたいのは古畑和孝先生(東京大学)である。東大の教養学部時代に私は古畑先生の授業を聴いて社会心理学に目覚めた。大学院では古畑先生のおられた社会心理学専攻に進学したが,古畑先生自身も道徳性という現実問題を研究され,また日本に心理学的社会心理学を根付かせたパイオニアでもあり,臨床心理学に社会心理学的な視点からアプローチしたい私にとって大きなモデルであった。コミュニティ心理学のパイオニアである山本和郎先生(慶應義塾大学)の授業を聴いたことも,この道を目指すきっかけとなった。山本先生は理想の研究者―実践家像であった。卒論では学習性無力感を扱ったが,その際には鎌原雅彦先生(帝京大学)に大変お世話になった。鎌原先生の取り計らいで,東大の教育学部で行われていた「動機づけ研究会」にも出させていただいた。同研究会には,大塚雄作先生(放送教育開発センター)の他に,当時助手をされていた山地弘起先生(東京大学),大学院生だった豊田秀樹先生,奈須正裕先生,伊藤忠弘先生,上淵寿先生(いずれも東京大学),鹿毛雅治先生(慶應義塾大学)も出席された。私の発表は,動機づけとは逆の「抑うつ」であったが,多くの有益なご意見をいただいた。大学院(社会心理学専攻)では,古畑先生以外に,山口勧先生や工藤恵理子先生にとりわけお世話になった。博論をどうにか書くことができたのは,両先生に負うところが大きい。
 国立精神・神経センター精神保健研究所(国立精研)に奉職して人生最大の刺激を受けたのは,上司である北村俊則先生だった。私にとって「神」と読んでも過言ではない存在だ。本書においても北村先生の影響を受けた論文は多数ある。北村先生の研究プロジェクトのおかげで,大野裕先生(慶應義塾大学)とも出会うことができた。大野先生には自殺予防のプロジェクトにお呼びいただき,その後もなにかとお世話になり,勇気と元気をいただいている。精研時代には,同僚との切磋琢磨や相互扶助も忘れられない。木島伸彦先生,友田貴子先生,田中江里子先生とは苦労を分かち合った。上司の菅原ますみ先生にもいろいろとご支援をいただいた。
 このころは,いくつかの研究会に出て,そこで当時大学院生だった杉山崇先生(学習院大学)や伊藤絵美先生(慶應義塾大学)と出会った。両先生は臨床心理の専門家だが,いろいろな刺激をいただき,今でも「同士」として学界活動を続けている。
 臨床心理の専門家との出会いといえば,精研後の就職先(大妻女子大学)での西河正行先生,福島哲夫先生である。西河先生は学生相談と精神分析,福島先生はユング心理学がおもなご専門で,私が依拠する実証的な考えとは絡まないと思われるだろうが,ここではむしろ「相補性」が働いた。両先生との会話は私にとって刺激的で,人の心理についての視点は広くもっておくべきことを実感する。
 最後に,大学院からこれまで一貫してお世話になっている恩師として丹野義彦先生(東京大学)を挙げたい。最初に論文を投稿する際に,丹野先生に赤ペンでびっちりと添削していただいたことは今でも忘れられない。その後も,書籍や学会活動などでご一緒させていただき,そのたびいろいろと学ばせていただいた。学んでも学んでもその先を行かれる丹野先生は実に大きな存在である。
 おも立った先生方を紹介するだけでも結構なスペースをとってしまった。ここに紹介しきれなかったが,実に多くの方から助言と勇気をもらってきた。私自身がめげずに何とかやって来られたのは,多くの人の励ましがあったおかげである。
 感謝,感謝。感謝まみれで筆を置きたい。もちろん,本書を読んでいただいた読者の読者の皆様にも心より感謝。


2010年8月 坂本真士