あとがき

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 第1章で記したように、本書は発達障害のある子どもたちを中心に、私の臨床感覚を纏めたものです。特に臨床から生活へと支援の場を「つなぐ」ことを目指して、毎回できるだけ創作した事例を挿入して書き続けたものです。
 第1章では、全体の俯瞰図というか、本書を読むうえで前提になることを書きました。続く第2章から第4章までは主たる発達障害についての説明とその障害と一緒に生きる子どもたちについて述べました。第5章から第9章までは、診察、治療プラン、鑑別点といった事柄に留意しながらの臨床場面での頭の回し方について開示しました。最後の第10章から第12章は、支援についての私の思いや迷いを素直に書きました。
 書き始めてから書き終わるまでに二年間という時間の長さがあり、ここに書き記した事柄は、すでに私にとって「かつての思い」という範疇になります。連載当時の文章をすべて通して読み直し、できるだけ全体の纏まりがつくように、できる範囲内での加筆修正を行ないましたが、目の前の子どもたちが育ち変わっていくように、私の思い、特に支援を論じた章については、何度書き直しても、「これでよし」と納得することができませんでした。結局どこまで行っても「中間報告書」の体裁から抜け出すことができなかったのです。
 それでも、医療モデルからの脱却を試みることを考え続けることができ、すでに存在していた「生活障害」という言葉を発達障害の世界へ登場させるまでに至り、その意味では「精一杯」なところとは言えます。
 日々の臨床では、対峙する子どもたちや家族、さらに関係者の方々から教えていただくことばかりですが、この連載を纏める段階では、「あのときに書き手であった」私へ「今読み手である」私が向きあう作業として自問自答することがかなりたくさんありました。つまり、考え、考えあぐね、結局、終わりのない明日に希望をもちつづけることで、今日を終える、という私の日々の繰り返しが、加筆修正のなかでも引き継がれたことになりました。本当に、何事も終わりのない世界です。
 さて、本書は、読まれた皆さんに「なるほど」というほどの情報は提供できなくとも、「そういう考え方もあるのかな。でも……」という自らへの問い立てを促進する役割位にはなれたでしょうか。さまざまなご批判、ご指摘をいただければ幸いです。

 本書は、金剛出版発行の『臨床心理学』という隔月発行雑誌に、二〇〇八年五月から二〇一〇年三月までの二年間、十二回にわたり、連続講座「つなげよう―発達障害のある子どもたちに私たちができること」として掲載していただいたものをもとにしております。当初は、二カ月に一回というペースは「なんとかなるかも」という甘い見通しで始めたのですが、早々に私は後悔することになりました。
 今回あらためて読み返し、執筆当時の記憶が明確なものと、とても不鮮明で「これは誰の原稿だ」という思いに晒される瞬間もありました。夢中といえば聞こえはよいかもしれませんが、当時はパニック寸前だったのかもしれません。それでもなんとか原稿を落とすことなく最後まで書き続けることができたのは、最初に担当していただきました山内俊介氏、さらに途中から今回一冊に纏めるお仕事を引き受けてくださった藤井裕二氏の二人の編集者の励ましと叱咤激励があったからに他なりません。書き手を追い詰めず、されど必要充分な修正を提示するという、このお二人の「人を育てつつ」の適正な支持のおかげで、本書は最終的に世に出ることになりました。
 お二人には、心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。


信じがたい猛暑のなかで 二〇一〇年八月 田中康雄