序文

 本書を読んでつくづく思うことは、わが国におけるSSTの普及と発展も第2段階に入ったということです。1995年にSST普及協会が設立されて15年が経過しました。"必要な人には全国どこでもSSTを"というスローガンで関係者の皆さんの努力と協力とで治療スタッフの学習体制は整備されました。今日では、精神障害者の社会復帰や再発防止のための有力なスキルズ獲得手段であるばかりでなく、教育分野さらには司法・更正分野まで導入がはかられています。こうしたSSTの適用範囲の拡大は精神障害に対する社会の偏見除去にも役立っています。世界精神医学会の機関誌の特集「今日の精神科リハビリテーション」(2006)の中で、チューリッヒ大学のレスラーは、「関係性を築くことと関係性を維持すること」の重要性を指摘しています。関係性を築くための方法として最も期待されるのがSSTであり、その成果によって地域生活を可能にすると明記しています。「関係性の維持」は家族への支援です。統合失調症の長期予後に、薬物療法、SSTそして家族介入(心理教育)の併用が最もよい結果をもたらすということは広く知られています。
 それほど期待されているSSTですが、SSTの効果に関して従来も汎化と持続性について疑問がありました。最近、公表されたイギリスの「統合失調症についての国の治療ガイドライン、2009」の中にSSTが収載されていますが、効果については限定的評価しか与えていません。私は治療者の理解、技量、態度抜きにはどんな治療法もその成果は論じられないと思います。私どものSST普及協会が認定講師制度を設けて治療者の質の確保をはかっているのはSSTの効果を確実にする上からも役立っているといえるでしょう。
 本書は、わが国のSST実践のリーダーの皆さんたちが中心になって、SSTをやっていく上で、もやもやとしたところを曖昧にせず、徹底して明らかにしてみることを目標にした連続講座の体験がもとになって出版されています。
 まず、「SSTアセスメントのための行動分析入門&活用」から始まります。このなかでとくに私に印象に残ったのは行動を「直前状況」「行動」「直後の状況」の3つの枠組みで捉えることと、「しない」「受身」は行動とはいわないという主張です。SSTが認知行動療法といわれる性格をはっきりさせたものでしょう。とくに後者は「正のフィードバック」につながるものでしょう。次に「ドライランをライブでどうアセスメントするか」が論じられています。ここで、SSTに参加する人たちを生活者として捉えることの必要性が説かれています。アセスメントの種類が具体的に記載されていますがその中には検査や評価表を用いるものまで含まれています。「証拠を重んじる」態度の育成につながるでしょう。次は「ニーズに合った目標設定、動機付けを高めるセッション」です。ここでは社会心理学者マズローの欲求階層理論から引用されています。マズローは精神分析家ホーナイの基底不安の理論に影響を受けたといわれますが、行動の動機を理解する上で有力な理論です。次の「問題解決療法/技法」はSSTの性格をより深く理解するのに役立つでしょう。次に「般化を促す宿題設定」が論じられています。SSTに参加する人たちを生活者として捉えるとすると、実生活の課題をとりあげることにSSTの比重がおかれねばならないでしょう。リバーマンとベラックの宿題設定の仕方も紹介されて説得力があります。そしてSSTセッション頻度を毎日から少なくとも週1回にすることをすすめています。最後に、「モジュールの正しい使い方」はSSTの原点の再確認の役割を果たしています。
 私ははじめに本書を読んでわが国におけるSSTの普及と発展も第2段階に入ったと述べたのは、それぞれの著者が自らの体験に向きあってSSTを自らのものにし、言葉にして下さったからであります。著者の皆さんに感謝し、本書が広く活用されることを期待します。


西園昌久