はじめに

 本書は,三十年近くに及んだ常勤による精神科病院での臨床実践と,二十年を越えた開業心理療法オフィスでの臨床実践の(最初の七年間は病院に勤めながらの夜間開業,次の六年間は月曜日から土曜日までの終日,そしてその後現在に至る十一年間は大学に勤めながらの週二日の非常勤であるが),この二つの心理臨床現場における経験の中から,書かれたものである。
 これまでにも,本書と同じ金剛出版から,一九九一年に『病院における心理療法―ユング心理学の臨床』,一九九五年に『夢分析による心理療法―ユング心理学の臨床』の両書を刊行し,前者では「精神科病院」という場において,後者では「夢分析」という技法によって,いかにクライエントを理解し,その援助をするかを,具体的,臨床的に考えてみた。しかし,出版してからもう十五年以上も経過してしまったこともあり,今読み直してみると,我ながら違和感を持ったり,訂正したい思いに駆られる部分がいくつか出てきた。
 また,この二冊を刊行した数年後から,大学,大学院において臨床心理学を講義するようになり,臨床心理学という学問とその臨床実践について,改めて考えたり,まとめたりする機会が多くなった。
 そこで,臨床心理士養成大学院における「臨床心理学特論」講義のテキストとしての使用も念頭に置いて,現在の私が考える「臨床心理学の方法」,すなわち「臨床心理学はいかにクライエントを理解し,手助けするか」について,ユング心理学や精神分析学に限定せず,もう少し幅広く臨床心理学の立場から考えてみることにする(こうした経緯から,上記二冊の原稿を改めて読み直して,ぜひとも語っておきたいところについては,とくに第U部,第V部において,納得できるまで訂正,修正を加えたうえで,一部に用いた)。