阿部隆明著

未熟型うつ病と双極スペクトラム
気分障害の包括的理解に向けて

A5判 300頁 定価(本体4,500円+税) 2011年3月刊


ISBN978-4-7724-1189-9

成熟停止社会と一億総うつ時代のための臨床試論

 新型うつ病の出現とともに,メランコリー親和型の古典的うつ病が過去のものとなりつつある「ポストメランコリー親和型時代」の今,あらためて問われる「未熟型うつ病」は,しかし現代日本に突如出現した新型うつ病の亜流ではない。患者の社会的規範の取り入れの脆弱性という意味での未熟性と,うつ病像が不安定かつ流動的という意味での未熟性,このダブルミーニングをもつ臨床概念は,ストレス過多の状況では内因性うつ病に陥るなかで不安・依存・攻撃性を呈し,ストレス消失とともに軽躁状態に移行することを典型的臨床像とすることから,むしろ双極性障害の一類型として構想されている。うつと躁の境界線はどこに存在するのか。うつと躁の往還はなぜ起こるのか。うつ病像の不安定性はなぜ生じるのか。うつ病・適応障害・双極性障害を気分障害という包括的概念によって同一射程に収める鳥瞰図を与えることで,「未熟型うつ病」概念だけがこの問いに応答する。「ポストメランコリー親和型時代」のうつ病論を革新的に刷新する「未熟型うつ病」論考から,双極スペクトラム論,うつ病経過・症状論,気分障害論へと考察を進めるなかで,現代という時代精神を解くひとつの糸口,そしてなによりも明日の臨床の糧が約束される。

    まえがき
    第Ⅰ部 未熟型うつ病

      第1章 未熟型うつ病
        はじめに
        1.症例
        2.臨床特徴
        3.治療
        4.未熟型うつ病の位置付け
        5.構造力動論から見た躁うつ病と未熟型うつ病
        6.ライフステージから見た未熟型うつ病とその他のうつ病類型
        おわりに

    第Ⅱ部 双極スペクトラム(躁とうつ)

      第2章 双極スペクトラム(Bipolar spectrum)について
        はじめに 1.双極性障害概念の成立
        2.双極スペクトラム概念の誕生
        3.Akiskalの双極スペクトラムの発展
        4.双極スペクトラムの分類
        5.双極スペクトラムの重症(精神病)極
        6.混合状態
        7.躁うつ病の経過と双極性障害の予測因子
        おわりに
      第3章 躁状態の精神病理学
        はじめに
        1.歴史的経緯
        2.躁病の病像
        3.躁とうつとの関連
        4.躁病の病前性格と発症状況
        5.精神分析から見た躁病とうつ病の発症
        6.「生体反応モデル」に基づいた躁病とうつ病の発症
        おわりに
      第4章 うつ病の躁転に関する状況論的考察
        開放病棟入院が荷下ろし(Entlastung)の状況を導く可能性について
        はじめに
        1.症例呈示
        2.両症例の診断と特徴
        3.躁転の状況についての検討
        4.躁転と病前性格
        5.病像と躁転との関係
        6.躁転の予防
      第5章 双極性障害と境界性パーソナリティ障害の鑑別と共存
        はじめに
        1.BPDの診断とComorbidity
        2.双極スペクトラム
        3.BPDの診断基準に見られる「感情障害」の要素
        4.BPDと双極性障害との鑑別診断が問題になる実際のケース
        おわりに

    第Ⅲ部 うつ病の症状・経過論

      第6章 うつ病者の語り
        うつ病の経過段階と病前人格を踏まえて
        はじめに
        1.力動布置から見たうつ病者の語り
        2.病識
        3.死のディスクール
        4.病前の人格構造と語り
        5.治療とケア
        おわりに
      第7章 うつ病中核群の概念
        精神病理学的視点から
        はじめに
        1.うつ病の基本障害とは
        2.構造力動論から見た内因性うつ病の症状形成
        3.うつ病症状の整理
        4.うつ病の中核群の特徴
        おわりに
      第8章 うつ病の心気・身体関連症状
        1.はじめに
        2.うつ病と身体症状
        3.仮面うつ病と心身症
        4.身体症状と心気症状
      第9章 気分障害(うつ病)におけるパニック発作の精神病理
        はじめに
        1.パニック障害の症状構成とうつ病性不安
        2.構造力動論から見たうつ病とパニック障害
        3.うつ病の経過とパニック発作
        4.うつ病においてパニック発作が生じる背景
        おわりに
      第10章 うつ病における解離
        はじめに
        1.解離について
        2.うつ病における解離(転換)出現のメカニズム
        3.うつ病の病前性格とヒステリー性格
        4.うつ病の状態像と解離(転換)
        5.うつ病の偽ヒステリー症状
        6.うつ病における解離(転換)ならびに類似症状への対応
        おわりに
      第11章 妄想性うつ病の精神病理学的検討
        うつ病妄想の成立条件(病前性格との関連)
        1.はじめに
        2.うつ病妄想に関する研究の問題点
        3.対象と方法
        4.調査結果
        5.症例による検討
        6.考察

    第Ⅳ部 現代社会と気分障害

      第12章 時代による気分障害の病像変化
        はじめに
        1.気分障害の診断と病像―歴史的背景
        2.気分障害の頻度
        3.うつ病の症状構成と社会文化
        4.第二次世界大戦後の社会変化とうつ病像
        5.各ライフステージにおけるうつ病像の変化
        6.ポストメランコリー親和型の時代へ
        おわりに

    あとがき
    索引
    初出一覧