はじめに

 筆者は現在大学の教員をしているが,これまで家庭裁判所で家庭裁判所調査官(以下,「調査官」と記述)として23年間勤務した。思えばアッという間の裁判所時代であった。その間に出会った非行少年は数え切れない。保護者や学校などの関係者を含めるとそれこそ莫大な数になる。そのうえ,家庭裁判所で取り扱う事件は少年事件以外に家事事件がある。離婚紛争中の夫婦,成年後見の高齢者,虐待や親権の問題の渦中にある子どもたちなど,そこでも本当に多くの人と出会わせてもらった。
 今にして思えば,そんな筆者の体験のなかで非行臨床(あるいは司法臨床)の技術が培われたのかもしれない。そこにはカウンセリングなどの心理臨床の技術との共通点も多いが,非行臨床ならではの技術も少なくない。また,この非行臨床の技術は筆者が所属していた家庭裁判所だけに通用するといったものでなく,非行少年等にかかわる専門家や教育関係者,時には少年の保護者にも役に立つのではないかと考えた。それが本書を執筆しようと思った一番の動機である。
 本書は,非行臨床の実践をさまざまな角度から取り上げた。第1章と第2章では,非行の歴史的変遷や近年の動向を論じながら,現代の非行少年や家族にはどのような特徴があるのかを取り上げた。そして,社会が非行少年に向けるまなざしや非行臨床に期待するものとは何かを記述した。第3章,第4章,第5章は,非行臨床における面接について取り上げた。カウンセリングなどの心理臨床面接とは違う“調査面接”について解説するとともに,そこでの技法上のコツや面接そのものをどのように構造化していくのかについて述べた。第6章では,“事実”ということをテーマに,事実への接近のあり方,事実が語るもの,事実の力について考えた。第7 章では,非行臨床における援助という視点から,“枠”の活用をいかに図っていくのかということや,動機付けの乏しいケースにどのように対応していけばいいのかについて論じた。第8章と第9章では,非行はさまざまな事象との関連から生じることから,虐待あるいは発達障害とのつながりを正確に読み取っていく重要性を強調した。第10章では“伝える”ことを念頭においた非行臨床における報告のあり方,第11章では非行臨床家を“育てる”ことを主眼にした訓練のあり方を取り上げた。
 いずれの章においても,非行臨床の技法やコツを意識しながら論を進め,「○○の技術」というタイトルをつけて章立てした。読者の皆様には興味あるところから,あるいは今困っているところからお読みいただければ幸いである。
 また,本書を『非行臨床の技術―実践としての面接・ケース理解・報告』としたのは,臨床心理学だけではなく,教育学,社会学,社会福祉学など幅広い領域で活用される実践書でありたいと考えたからである。本書が多くの人に読まれ,非行の更生や防止に役立てられることを心から願ってやまない。