日本語版への序

 あまりに長い年月,統合失調症を抱える人々の将来は治療に関して悲観的であった。彼らのリカバリーへの願望には,仕事,社会生活および支援関係が含まれている。私たちは,彼らの目標達成を援助するための技術を携えてきたが,リハビリテーション・プログラムでは大多数の改善を促すための限界があることがわかってきた。
 長年,治療は,顕著な症状である妄想や幻覚に注意がむけられ,薬物治療が主であった。時間とともに陽性症状の改善があったが,多くの人々にはまだ残遺症状があったり,リカバリーについての転帰が不良であった。新規抗精神病薬は症状改善に束の間の希望的観測をもたらしたが,これらにもこれまでの定型抗精神病薬と同様に副作用があり,また人々が目標達成するのを援助するには適切ではないことがわかった。実際,統合失調症と診断された人たちの社会的転帰は,過去50年にわたり,変化がなかったといってよい。
 リハビリテーションの転帰の限界に気づくにはあまりに長い時間がかかった。そして,そのことは地域のコミュニテイで統合失調症を抱える人々をケアするための大規模な支援施設のサービスの変化にともなって明らかになった。健康・社会ケアサービスでは,人々がうまくやっていくための多くの支援を必要としたり,症状が表面化することに着目しはじめた。研究者たちが同じ問題に気づくには,少しばかりより多くの時間がかかった。そして,ごく最近,リハビリテーションによる努力には限界をもたらす鍵となる要因,すなわち認知機能障害とケアのコストとが結びついていたことがわかったのである。この要因は,長期的転帰の予測と同様に健康や社会的ケアのコストと結びついていた。
 クレペリンやブロイラーの仕事に遡っても,認知機能の問題は統合失調症に関与しており,発症前,急性期および主症状が治まったあとも変わらない特徴として概念化されていたことが知られている。これらは記憶,注意および実行機能(計画を立てたり,他の認知スキルの利用に関わる機能)を含む認知領域の中に見いだされてきた。認知機能の問題の関与に加えて,最善のリハビリテーションのプログラムやシステムさえも転帰に影響を及ぼすと認識されるようになったのは1990年代になってからであった。これらの認知機能の問題は変化しないと考えられてきたので,治療しても変えることができないという悲観的考え方が増していった。
 しかし,臨床家たちは問題ある状態に満足せず,それについて何ができるのか,今の治療体制になされる必要がある調整は何かを知りたかった。そして,より多くの問いを投げかけた。統合失調症と診断され認知機能の問題のある人々を援助するための治療はあるのか?そして,その治療が認知機能の改善をもたらすとともに,利用可能な社会的つながりや就業の機会を増やし,リカバリーを増進するのだろうか?
 本書はこれら多数の質問に対する解答をいくらか示している。臨床サービスを行いながら,最先端の治療を評価している経験ある2人の臨床研究者によって書かれた。さらにありがたいことに,臨床上の問題,およびリハビリテーション・スタッフや研究者が利用しやすいものにすることを理解している人々によって翻訳されたのである。
 日本の読者は今や認知機能改善療法を実施するための基礎をもっている。この技術を利用することによって,スタッフの治療に対する見通しが増すことも私たちは願っている。それはリハビリテーション・サービスの活力となるものである。さらに大きな願いは,この技術を必要とされる当事者がリカバリーへの障壁を克服できることである。

ティル・ワイクス
クレア・リーダー