はじめに

 本書は認知行動療法を身につけ,効果的に使ってもらうことを目的としたトレーニングブックです。
 認知行動療法は近年,うつや不安に対するエビデンスのある治療法として少しずつ注目を浴びるようになり,2010年4月から医療保険点数化され,新聞や書籍などでも散見されるようになりました。認知行動療法の本を見ると,そこにはよく,「うつが良くなる治療法」「10回でうつ病が治る」などのキャッチフレーズがあります。
 しかし,本当にそうなのでしょうか?
 これまで,実際の臨床現場で,もしくは書籍などで,同じような疑問を私たちは持ってきました。具体的に言うと,

 ●認知行動療法は,「考えをポジティブに変える」技法なのか?
 ●うつや不安を「治す」画期的なツールなのか?
 ●認知行動療法のやり方は疾患によってそんなに違うのか?

というようなことです。
 その疑問が,私たちにとって,この本を作るエネルギーになりました。
 私たちは,医療機関や相談機関などで認知行動療法を実践し,それと同時に自分のストレスマネジメントとしても,認知行動療法を使ってきました。そのなかで,私たちは以下のように認知行動療法を捉えるようになりました。

 ●認知行動療法とは,自分のことをよりよく理解して,自分に合ったストレスマネジメントの方法を身につけるものである。また、じっくりと自己理解を深めることで,
   ストレスに巻き込まれにくくなるものである。
 ●個別の病気の治療というよりも,身につけていくことで病気の再発予防になる方法である。また,病気か否かにかかわらず,日々のストレスマネジメントにも効果
   を発揮する方法である。
 ●必ずしも1対1のカウンセリングの枠で認知行動療法を行う必要はない。
 ●着付け教室や英会話などと同様に,ひとりでも,もしくは専門家のいないセルフヘルプ・グループであっても,良いマニュアルを適切に使用し,練習することで,
   認知行動療法を身につけることができる。
 ●認知行動療法は,さらっとやる,簡単にやるものではなく,じっくりと丹念に取り組むことで,効果が発揮される心理療法である。

 上記のことを踏まえたうえで,私たちは,本書を作成しました。
 なお,本書は認知行動療法を身につけたいと思っている人のために書かれたトレーニングブックであり,施行者用マニュアル(『認知行動療法を提供する―グループとセルフヘルプのためのCBTトレーナーガイドブック』)も,順次執筆予定です。
 ぜひ,ひとりでも多くの人に使用していただけることを願っています。

大島 郁葉
安元 万佑子