大月康義著/江口重幸解題

語る記憶
解離と語りの文化精神医学

四六判 392頁 定価(本体4,800円+税) 2011年8月刊


ISBN978-4-7724-1207-0

 「医局での研修が終わり,オホーツク圏の総合病院精神科へ赴任しまもなくのころ,診察中突然若い女性が男の子の声で「僕はね……」と語りだし,驚くとともに当惑し,ただ見守るしかないという体験をした」

 原点としての憑依論,統合失調症論,うつ病論,そしてアイヌのイム研究へと歩みを進めるなかで描かれる,日常臨床の周縁部にある原−光景との接触,そのリアリティから生活世界や精神医学を逆照射する軌跡。
 本書に収録された代表的論考「精神科臨床とダイアロジスム」「精神科臨床とバフチンの思想」「統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成」は,患者たちのポリフォニックな対話のなかで開かれる自己治癒の沃土としての微小文化を意識しつつ患者の経験を聞くという方法,すなわち精神科臨床における対話的民族誌を試みた精神医学の里程標(マイルストーン)であり,音読のリズムで精読すべき文化精神医学のコスモロジーを指し示す。

おもな目次

序言
1 文化装置の発見

    第1章 手かざしを契機に発症した憑依症候群の一症例
    第2章 憑依の臨床像
    第3章 憑依と精神科臨床―歴史と文化の視点から

2 厚い記述をめざして

    第4章 精神科臨床とダイアロジスム
    第5章 精神科臨床とバフチンの思想

3 世に棲む臨床

    第6章 統合失調症者と自己治癒的コミュニタスの形成
    第7章 塀の中の不思議な面々
    第8章 青年期抑うつ気分についての文化精神医学的考察

4 精神症候と社会文化的諸力

    第9章 記憶・文化・多重人格
    第10章 文化とフェミニズムの視点からみた現代アメリカのヒステリー
    第11章 現代におけるうつ病の急増とジャネの神経症論

5 幻想の文化結合症候群

    第12章 アイヌのイム研究の歴史について
    第13章 田村幸雄と民族精神医学
    第14章 アイヌのイムについて―ラターパラドックスを解く

解題 江口重幸