まえがき

 本書は、北翔大学心理臨床セミナーにおいて、七人の対人援助を専門とする臨床家が自らの取り組みについて講演し、その後、村瀬嘉代子先生と対談した内容が収録されている。出版に至る経緯を簡単に説明したい。
 村瀬嘉代子先生は、平成二〇年から北翔大学大学院人間福祉学研究科の教授として北海道へいらっしゃった。毎月一週間だけ北海道に滞在され、教育や研究活動を精力的になさっておられる。そんな多忙な中で、臨床に携わっている人たちを集めて夜間事例研究会も開催している。筆者も参加させていただき、昨年は皆の前で久しぶりに自分の事例の精神療法過程を詳細に報告した。
 筆者も含めて北海道の臨床家は、この夜間事例研究会における村瀬先生のコメントを聞いて、まさに目から鱗が落ちる体験をしたと思う。発表者へのさりげないようでいて鋭く深く、かつ気配りが行き届いた温かいコメントに対し、それを聞く発表者も他の参加者も同時に多くのことに気づかされ、自らを反省し、こういう考え方もあるのだと驚き、でも可能性と希望を抱き、明日への活力が湧いてくるという貴重な体験であった。
 本書に収録されている七人の講演と村瀬先生との対談は、夜間事例検討会と並行する形で、平成二一年の五月から毎月一回、毎回約一〇〇名の参加者の前で行われたものである。北海道のさまざまな領域で活動している七人の臨床家が、「これまでどういうことを大切にしながら取り組んできたのか」「対人援助という営みについて何を考えてきたのか」について講演を行い、その後、村瀬先生と対人援助の本質について対談しながら、参加者ともディスカッションしていくという趣向である。
 読者にとっては、七人の講演者の話はそれぞれの職種や立場の違いが浮き彫りになって、とてもユニークで読み応えがあることは言うまでもないが、その後の村瀬先生のコメントを読むことによってさらに思索が深まり、さまざまなことに気づくという体験をするのではないだろうか。あたかも、事例検討会の場に自ら参加しているような錯覚を覚えるかもしれない。また、講演者が村瀬先生の質問によって、次第に自らを包み隠さず表現するようになり、それぞれの気づきに到達する様子も見て取れるだろう。それは、まさに心理療法過程と同じ経過をたどるのである。
 掲載された順番に七人の演者、題名および内容を簡単に紹介する。

(一)子どもの心に出会うこと、それを支えていくこと(傳田健三)――児童精神科医として相互に絵を描くというスクィグル法を介して子どもとかかわった経過を報告
   した。

(二)言語障害をもつ人との豊かなコミュニケーションをめざして(風間雅江)――言語聴覚士として、技術的な言語療法だけでなく、人間としてのコミュニケーション
   の問題を述べた。

(三)生活を営むことに苦労している子どもと親と関係者との支え合いの経験から(田中康雄)――いくつかの事例を呈示しながら、相互性という視点から対人援助
   の本質に言及した。

(四)ローカルであり続けること(平野直己)――フリースペースや地域の活動などの実践を通して独自の対人援助のあり方を述べた。

(五)思春期の子どもたちのかかわりから学んだこと(村田昌俊)――不登校の子どもたちに対する院内学級の教師としての体験と発達障害児の親の会の活動を
   詳しく述べた。

(六)人格の尊重とケアの力について(三瓶 徹)――特別養護老人ホームの認知症の方々とのかかわりを通して、相互の関係性を育んでいくという実践を語った。

(七)臨床心理士の道を歩むということ(佐藤由香利)――自身の臨床心理士としての歩みを通して、対人援助の本質を考察した。

 読者は、七人の臨床家の話を読みながら、まず、それぞれの立場できわめて基本に忠実であることを認識すると思う。しかし、優れた対人援助の本質として、理論や技法だけでなく、援助職者側の要因、たとえば援助職者のもつ資質や人間性も大切であることにも気づくだろう。そして最後に、対人援助職者には職種や領域が異なるけれども、共通する本質があるということに思い至るのではないだろうか。
 村瀬先生は、七人の臨床家の個性の違いと内部に通底する共通する本質を、料理の鉄人のように、ときに繊細なタッチで、ときにバッサリとあぶり出していく。読者の皆さんも、それぞれの話を読みながら、自分の臨床との違いと共通点に気づき、思索を刺激され、自らの現実を省みる機会としていただけたら幸甚である。

二〇一一年七月 傳田健三