あとがき

 私たちが「これまでにない学生相談の本を作ろう」という意気込みで本書の企画を始めたのは,今から1年半ほど前のことでした。このような意気込みを持てたのは,発足時から運営に関わっていた東京大学法学部学習相談室(第3部第8章参照)や東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援室(第2部参照)の活動に手応えを感じるとともに,それらが世に問う価値のあるものと思えたからに他なりません。
 こうした部局単位のコミュニティを対象とした学生相談活動においては,従来の個別学生のみを対象とする学生相談では経験し難いさまざまな発見がありました。例えば,各部局コミュニティの風土,文化の違いを理解し,それぞれのニーズを把握しながらきめ細かい支援をデザインすることが重要でした。また,部局から相談室への期待として,潜在化した学生の問題をいち早く察知し,コミュニティにフィードバックするなど,アンテナ役割や情報発信機能が求められていることも再認識させられました。
 このような発見を通して活動が軌道に乗るまでは,試行錯誤の段階がありました。いかなる組織においても発足当初の苦しみは避けて通ることはできないものです。しかしどのような困難時も,部局の皆様が励まし続けてくれました。この「支えがある」という実感こそが,部局単位の学生相談の強みといえるのではないでしょうか。「同じ釜の飯を食っている」と感じられる人たちから支援を受けながら,さまざまな問題解決に向けて取り組むことは,安心感とやる気のもとになっているように思われます。
 一方で,部局内の周囲の組織との距離の近さは,学生相談が「厳しい目」で見られる場面も作り出します。運営委員会等で定期的に活動のチェックを受けるレベルは,おそらく従来の学生相談よりも厳しいものとならざるをえないでしょう。その意味では,甘えは許されませんが,そうした厳しさが,学生相談と周囲の組織との間に真の意味での協働を生み出しているのだと思います。
 こうした思いから,本書では協働が1つのキーワードとなっています。ただし,本書の企画を練り上げていくうちに,現実に実践されている協働のみならず,今後学生相談の協働の対象となるもの,あるいは学生相談が視野に入れるべきものについても盛り込みたいという気持が生じてきました。そこで,そのようなテーマに基づく論考も第4部を中心に積極的に掲載することにしました。
 本書を準備している最中の2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。被災された皆様には,心よりお見舞いを申し上げます。現在,被災者の心のケアをめぐって,改めて相談活動の意義が問われています。今後の被災者支援においては,学生相談も他の相談活動と同じように,これまでにない貢献の形が求められることになるでしょう。こうした新たな展開を模索するなかで,本書の内容が少しでもお役に立てれば幸いです。
 最後に,推薦文をお寄せいただいた東京大学副学長の武藤芳照教授に心より御礼を申し上げます。また,企画の段階からたくさんのサポートをしてくださった金剛出版の藤井裕二さんにも記して感謝いたします。そして,本書で紹介した学生相談の諸活動を支えてくださっている皆様に厚く御礼を申し上げ,筆をおくこととします。

2011年11月 下山晴彦・森田慎一郎・榎本眞理子