まえがき

 本書は、編著者の研究室で共同研究者の方々と近年行ってきた、認知行動療法に基づく新たな治療法の開発や、認知行動療法のメンタルヘルス不調の予防のための、各種研究のまとめとなっている。これまで、福井研究室で行ってきた研究は大きく治療と予防のための研究に分けられる。そのため、本書では前編を治療編とし、後編を予防編として各研究を紹介した。それぞれの章は、多くは新しく書き起した章であるが、一部これまでに福井研究室で作成した論文を改編して読みやすくしたものもある。
 治療編では、第1章から第4章までを読むと認知行動療法の復習と認知行動療法カードの使い方が理解できるようになっている。認知行動療法カードは福井が、2004年に作成したもので、Depression and Anxiety Cognition ScaleやJapanese Irrational Belief Test-Revisedで測定した、否定的自動思考や不合理な信念の認知変容を、容易で確実に行えるようにしたカード・セットである。また第5章には、本書のために新たに書き起こした、高齢者を対象とした認知行動療法についてまとめた。さらに、第6章〜第8章はパーソナリティー障害の治療のための認知行動療法に関する研究が示されている。この研究は、パーソナリティ障害全般にわたって使用できるPersonality Disorder Schema ScaleやPersonality Disorder Symptom Inventoryを開発し、スキーマの変容を容易で確実に行えるようなカードを作成したものである。第9章と第10章では、パニック性不安うつ病に対する認知行動療法のプログラム開発と、パニック発作における破局的認知を測定する質問紙開発研究が示されている。第11章から第13章は恐怖症の治療に関する研究をまとめたものであり、NIRSを用いたクモ恐怖症の研究やComputerized Cognitive Behavior Therapy、VRエクスポージャーの各研究を示した。
 予防編では、第14章に肯定的気分を高めるための認知行動療法の研究が示されている。また、第15章では教員のうつ病予防のための認知行動療法の研究を紹介し、第16章では新任管理職のうつ病予防のための認知行動療法の研究を紹介した。この第15章と第16章には、それらの研究に基づいて作成された、うつ病予防用の質問紙とカードセットの使い方も解説されている。さらに、第17章は看護師のメンタルヘルス向上のための研究となっており、第18章はメンタルヘルス・ワークブック<看護師編>と思考トレーニングブックの活用方法が説明されている。同じように、第19章は、SEのメンタルヘルス向上のための研究となっており、第20章はメンタルヘルス・ワークブックと思考トレーニングブックの活用方法が説明されている。
 ところで、第1章から第4章までの研究は北海道医療大学の坂野雄二教授がご指導くださった著者の博士論文をもとにした研究開発に基づいている。著者は博士号取得後、先述した認知行動療法カード・セットを開発したことで、アセスメントと治療が完全に対応した治療セットとして利用することができ、認知行動療法を訓練中の者でも容易で確実に実施することができるようになった。また、第6章以降で紹介しているパーソナリティー障害、教師、看護師、SEなどを対象とした認知行動療法においても共同研究者とともに、質問紙の開発、その質問紙に基づく認知行動モデルの構築、そしてその認知行動モデルに基づくカード・セットやメンタルヘルス・ワークブックの開発を行ってきた。以上のように、著者の研究は、多くの共同研究をしてくださった方々のおかげで成し遂げられてきたものであり、ここに深く諸氏に感謝の意を表したい。また著者はこれまで、大学の学部や大学院の授業のほか、東京大学医学部の久保木富房名誉教授が主催される東京認知行動療法アカデミーや、日本産業カウンセラー協会のシニア産業カウンセラー養成のためのシニア・コースなどで多くの講義をさせていただいてきた。その受講生の多くの方々が、実際の心理臨床場面や産業カウンセリング場面などで、著者らの開発してきた質問紙や認知行動療法実践カードなどを利用してくださっている。それらの方は、著者らの元論文を取り寄せて読んでくださっている方も多いが、研究機関に所属していないと元論文を取り寄せづらい場合もある。また、国内の多くの大学院生の方からも元論文の抜き刷りを送ってほしいという要望があった。そこで、それらのご要望に応えられるように、それらをわかりやすくまとめなおしたのが本書である。後編部分は、認知行動療法カード<教師編>や<管理職編>、およびメンタルヘルス・ワークブック<看護師編>やなどを利用される先生方に、その元ととなった研究をご覧いただくために編集した。また、前編を含めて、認知行動療法に関する研究を行おうとしている大学生や大学院生などの方々に参考になればと祈念して編集した。
 最後に、私の臨床と研究を導いてくださった医療法人和楽会・パニック障害研究センター代表 貝谷久宣理事長、北海道医療大学 坂野雄二教授、早稲田大学 木村裕教授、東京家政大学 近喰ふじ子教授、東京大学 久保木富房名誉教授、早稲田大学 野村忍教授、熊野宏昭教授、東京大学 丹野義彦教授、千葉大学 清水栄司教授、医療法人和楽会赤坂クリニック 吉田栄治院長、医療法人和楽会なごやメンタルクリニック 原井宏明院長、東京目黒カウンセリングセンター Douglas Eames博士、その他諸先生方に心より感謝申し上げます。また、本書でご紹介した研究で多くの助言とご協力をいただきました東京大学 久保田俊一郎教授、東京大学 梅景正准教授、日本工業大学 瀧ヶ崎隆司准教授、神奈川大学 荻野佳代子准教授、長野大学 稲木康一郎准教授、シニア産業カウンセラー 粟竹慎太郎先生、小永井カズ江先生、寺戸誠治先生、山口大学医学部大学院 松尾幸治講師、東京多摩ネット心理相談室 鈴木孝信先生、こころネット株式会社 佐藤敬社長、株式会社SAITECの足立昇平社長に心より感謝申し上げます。さらに、福井研究室の研究や本書の編集にご協力いただいた埼玉県警察本部少年サポートセンター 山阜b先生、医療法人和楽会赤坂クリニック 宇佐美英里先生、小松智賀先生、野口恭子先生、東京警察病院 長谷川誠先生、 医療法人和楽会横浜クリニック 石井華先生、東京家政大学助手 梅原沙衣加先生、東京家政大学大学院 川副暢子さん、東京家政大学 高井絵里さん、東京家政大学 向井美緒さん、東京家政大学 鴨井絵美さんに心から感謝を申し上げます。
 そして金剛出版の立石正信社長には、本書の企画から編集まで多くのご助力をいただき、心から感謝申し上げます。

2011年10月
福井 至