新訂増補版の序文

 この10年のあいだに,時代は大きく変わった。かつては,古い時代観が青年を縛り苦しめていたところがあった。が,昨今は逆に,青年と家族を護る人と地域が希薄となり,青年と家族が,孤立し孤独になりやすい時代になってきた。最後の砦の家族も心理的・経済的,さらに言えば,マンパワーとしても,ゆとりがなく,些細な出来事で壊れやすい。失われた人や地域の支えを補完するかのように,精神科を受診する青年は増えてきており,それには,病気から人生の悩みまで幅広いものが含まれているのが現状である。
 初版に,思春期臨床の姿勢の基本を三点記した。
 第一に,青年の心の中だけを見るのではなく,青年の生活,青年と家族をとりまく環境を把握する。即ちソーシャルワーク的な視点が不可欠であるということ。
 第二に,青年個人へのアプローチだけでなく,青年が安全で安心できる生きる基盤を少しでも整えていこうとする姿勢を持つ。それは,そのような基盤なしに,青年だけが安定していくことはなかなか難しいからである。
 第三に受診してくる青年を医原性の精神科の病気にしないということをいつも意識する。
 以上の基本姿勢の重要性は,今でも変わらない。いや,青年と家族が孤立しやすく,社会とのつながりが希薄な時代では,相対的にもなおのこと,この姿勢の重要性が求められているのではないかと考える。
 この度の改訂増補版の出版にあたり,改めて10年前の初版を読み直した。躊躇する私に,長年一緒に仕事をしてきた村上伸治氏は,「この一冊が絶版にならないようにしてほしい。これが原点なのだから」と助言してくれた。そこで,その間の経験を踏まえて,本文に若干の加筆・修正を,また「付記」という形で少し長い加筆を行った次第である。「自分の本を育てる」という初めての経験であった。改めて初版に命を吹き込む機会を与えていただいた,金剛出版の立石正信氏に心より感謝申し上げる。
 思春期臨床は,青年と家族,そして医療・福祉・教育の他領域のスタッフの力を合わせた総力戦である。本書が青年と家族,そして彼らに関わる人々の日々の潤いのために,いくらかもでも示唆を与えることができることを,心より願ってやまない。