訳者あとがき

 著者たちが本書内で述べているように,ここで紹介されている心理検査は一般的なものが多く,最新の検査情報については引用文献などを参照して自分で調べていかなければならないでしょう。むしろこの本は少年司法手続における標準化検査の役割や可能性について学ぶのに適していて,コンパクトで分かりやすく書かれていると思います。
 少年事件の現場で対象者の心理面等の鑑別や調査をしていると,自分の着想から離れて客観的にケースを検討することが難しいと感じることがよくあります。私自身専門家(の端くれ)としてもっと見識や経験を深めて力をつけていかなければならないのでしょうが,客観的な物差しとして手元にある情報や自分の仮説についてフィードバックを与えてくれる標準化検査の存在は大きいと常々感じています。
 著者が繰り返し述べているように,標準化テストとは言えその結果を鵜呑みにすることなく,各種情報と一緒に検討しながらアセスメントの中に統合していくことは大切で,それにより質の良いデータに裏打ちされた説明ができるようになると考えます。そのような姿勢についても本書から学ぶところは大きく,適正なアセスメントを経て非行や犯罪の原因,環境や家庭の問題,あるいは少年像を解明していくことは,少年事件に関与するさまざまな機関が効果的に対象少年の問題に対処していくことを助けることになるでしょう。
 原書の編集者が冒頭で述べているように,著者たちは控えめながら説得力ある論調で本書を執筆しています。しかし,作業に不慣れだったとは言え,翻訳文を読み返すと稚拙な表現ばかりが目につき,校了した今でも自分の中では達成感よりも内容が正確に伝わらないのではという不安感が先に立ってしまいます。翻訳に時間がかかりすぎたことについても反省するばかりで,我慢強く待ってくださった金剛出版の方々には心から感謝申し上げます。読んで下さる方にとって少しでもお役に立てれば幸いです。

法務省矯正局成人矯正課
菅野哲也