はじめに

 コラージュ療法は筆者が1987年に箱庭療法の適用範囲を拡大する試みの中で,思いがけず思いついたものである。すなわち,ピカソらが始めた美術のコラージュの価値を,箱庭療法の経験を通すことによって,再発見したと言える。
 コラージュ療法は不用になった雑誌やパンフレットなどの既製の絵や写真,文字などをはさみで切り抜き,台紙の上で構成し,糊づけるという簡単明瞭な方法である。非常に簡単な方法でありながら,非常に適用範囲が広く,奥深い方法である。幼児から高齢者まで,また,健康な人から精神病の人まで適用されている。芸術療法の手法としてもっとも適用範囲が広い方法の一つである。
 コラージュ療法をその基礎から学びたい人がたくさんいる。しかし,その実践のためにふさわしい基礎的テキストが今は,見当たらない状態である。2006年,これまで出版された「コラージュ療法」関係書には内容に誤りなどの事情が判明し,遺憾のことながら,絶版状態を余儀なくされている。教育研究を推進するための基本的参考書を緊急に出版する必要性が出てきた。何とか基本となる歴史的事実だけは正確に記録し,残しておかなければならないと考える。
 本書のもとになったものは,筆者が過去20年あまりの日本心理臨床学会,日本臨床心理士会,日本箱庭療法学会,日本遊戯療法学会,その他の主催する「コラージュ療法ワークショップ」で配布してきたレジメをもとにしている。このレジメは筆者のコラージュ療法経験の深まりとともに,また,20年以上に及ぶ学界でのコラージュ療法研究の発展につれて,内容は徐々に充実したものとなってきた。
 本書は第T部と第U部に分かれている。第T部は筆者がコラージュ療法を思いつく経過とその理論的背景,日本での過去20年以上にわたるコラージュ療法の歴史を載せた。第U部にはコラージュ療法の実践方法を記述した。多くの読者は第U部から読んでいただいても差し支えない。しかし,その技法が出てきた背景を知らないままに,ただ「切って貼る」だけを実践するということから生じる危うさがあるということを忘れないでほしい。方法が単純明快であるために,ついついその背景が省略され過ぎて,誤解されているのではないだろうか。単純な方法論の背後にこそ,しっかりした理論的基礎が必要であると言える。これまで出版されたコラージュ療法の論文や著書は,筆者が本書第T部で述べたような内容をまったく省略していることが多い。また,多くの文献には,由来や先行研究を紹介しないまま,また出典を明記しないままに書かれていることが多く,これは研究者のマナーに反する行為と言わざるを得ない。
 コラージュ療法の初心者とともに,これまですでに実践している人も,これまでの間違った記憶を再確認し,誤解を改めるためにもぜひ一読をしていただきたい。

平成24年3月
森谷寛之