あとがき

 本書は,1982年の「患者による8o 映画づくりの試み」から2005年の「感情労働としての精神科看護」まで,ほぼ30年の間に書いた文章をまとめたものである。タイトルこそ『グループと精神科看護』となっているが,その内容は必ずしもその二つに限定されるものではなく,地域での実践から看護一般へ,そして感情労働へと多岐にわたっている。集めてみると同じようなことを複数の論文で繰り返し語っていて,重複している内容も多いが,そこはご勘弁いただきたいと思う。
 だが,こうして長年の仕事を俯瞰してみると,「感情」というものが看護という仕事とグループをつなぐ要となっていることがわかる。本書の中にも書いたが,子どものころから「情緒不安定」といわれ,自分の感情をもてあまし気味であった私が,感情に導かれるようにして看護に出会い,グループに出会った。そして,今,「感情労働」という概念に行きつき,多くの人々に関心を寄せられるようになった。30年と書いたが,自分ではそんなに時間が経ったとは思えないでいる。ただ,書いたものをまとめて読み直してみると,私個人の歴史が,ある意味で時代の歩みと重なり合うようにしてあることが,改めて分かる気がした。
 中でも海上寮療養所での実践については,『レトリートとしての精神病院』にまとめられているが,今,当時のことを語ったり書いたりしていると,まるで年寄りの繰り言のような気分になることがある。およそ,その頃とはかけ離れた精神科医療の現実が目の前にあるからである。だが,それでもなお,人と出会いかかわり合うことの意味や価値は変わっていないと信じたい。
 そして,私自身,多くの人々との出会いによって支えられ育てられてきたことは,本書では語りつくせないことである。とくに,海上寮療養所での出会いから現在までずっと導いていただいた鈴木純一先生や職場の同僚,そして今は亡き土居健郎先生に心から感謝したいと思う。そして,ここに記したことの幾ばくかでも,若い人々への励ましになることを願ってやまない。

2012年1月 武井麻子